岡山県倉敷市で急性期医療を担う倉敷中央病院。街並みに溶け込む“病院らしからぬ”おしゃれな外観が目を引く同病院は2021年4月、GEヘルスケア・ジャパンとともに2018年1月から進めている「デジタルトランスフォーメーションの具現化に向けた包括的取組み」についての中間報告を発表した。

この取り組みは、GEヘルスケア・日野工場のモノづくりノウハウから生み出された「ブリリアント・ファクトリー」構想に基づく病院運営の効率化・最適化ソリューション「ブリリアント・ホスピタル」構想の実現に向けたもの。リーン生産方式とデジタル化でムダを減らす効率的なモノづくり手法を医療現場に応用し、院内の機器や医療従事者、患者などに関する様々なデータを収集・分析することで潜在的な課題を可視化。コスト削減や生産性の向上を実現することにより病院経営の改善を目指す構想だ。

今回の中間報告によれば、年間800万円もの算定漏れの改善を実現するなど、病院運営の最適化、さらには医療の質向上に貢献しているという。このプロジェクトを立ち上げるに至った経緯、そして成果を得るまでのプロセスや課題、今後の展望は――。倉敷中央病院 副院長で整形外科 臨床研究支援センター長の松下睦氏、資材部 部長の和田龍夫氏、経営企画部 部長の中島雄一氏に話を聞いた。

(聞き手は小谷 卓也=Beyond Health)

インタビューの様子(写真:森田 靖、以下同)

何台あって、何台稼働していのるか分からない状況

そもそもどういった課題があってこのプロジェクトを立ち上げたのでしょうか。

松下 毎年、医療機器購入費として一定の枠があるなかで、これまでは各部署や診療科から出てきた要望に対してその都度、審査を行い淡々と進めてきました。そのなかで、例えば高額の放射線機器などは稼働実態がよく分かる。放射線機器を使って行った診療行為はすべて保険に反映されるので、毎日何件あったか、どの診療科でどういう内容の診療が行われたのか100パーセント把握できます。

 それに対して、超音波診断装置は病院内にいま何台あって、実際に何台稼働していのるかも分からない状況でした。購入の記録があってもそれが現在も稼働しているのか、どこかで埃をかぶっているのかも分からない。無駄な機器が廃棄されないままメンテナンスの費用だけかかっていることもありうる。いっぽうで毎回多くの購入申請があり、本当に必要なのかよく分からないまま感覚で採用しているという課題に直面していました。

なぜ超音波診断装置は稼働実態を把握できていなかったのですか。

松下 これには超音波診断装置特有の事情があります。機器の進化により非常に高精細な画像が得られるようになり、各診療領域に急速に普及していきました。各診療科からオーダーを受けて検査技師さんが行うような検査はすべて把握できていたのですが、多くの超音波診断装置は現場でドクターがいわば聴診器のように日常的に使う状況になっていました。

副院長の松下睦氏

 そこでまず、病院にあるすべての機器を調査しました。人海戦術でとても大変だったのですが、実際にやってみると病棟の倉庫の中に放置されていて先生がその存在も忘れていた、というようなものがやはりありました。ただ現有の台数が分かっても実際にどれだけ使っているかが分からない。そこで次に、とてもアナログなのですが機器の横に紙をぶら下げて利用したら書くというルールにして稼働状況の可視化を行いました。とはいえ、現場は忙しいうえに手書きなので、書き漏れやミスがあるでしょうし、機器の購入や運用を効率良く行っているとは言えない状況でとても困っていました。

きちんと収集したデータで示せば説得力が増す

今回の中間報告で示したような効果が得られるまでのプロセスを教えてください。

松下 まず、超音波診断装置にセンサーを取り付けたことで、どこでどのくらい使われているのか、稼働実態を把握できるようになりました。ただそれは基礎の基礎。単純にデータだけで判断できるということはありえません。

 GEヘルスケアの担当者が現場に足繁く通って実際の使われ方や人の動きを観察し、一番実情を知っている現場の人間とも連携して何が一番良いのかを練っていきました。そのうえで、例えば稼働率が低い2台の超音波診断装置を1台にして、2つの診療科の中央に置いてシェアしてはどうか、などを現場に丁寧に提案していきました。

 また、ある診療科では新しい機器に更新する必要があるけれど、いま使用している機器はほかの診療科で十分に使えるというケースもあるので、「メルカリ」ならぬ「メディカリ」というニックネームを付けて病院内で再利用をできないか提案していきました。その結果、以前では頭からはねつけられていたような提案も少しずつ受け入れられるようになってきました。

各診療科で受け入れられるようになってきたポイントはどこにあると思いますか。

 やはり、きちんと収集したデータがあること。単にトップダウンでやるとなると現場の反発は大きくなりがちですが、実際に稼働数が何回でしたと数字で示すと説得力が上がります。

 さらに、人間の目でしっかり実地調査をして現場の方も納得できるカタチで提案をすること。また、GEヘルスケアの担当者だけに頼るのではなく、経営層が強いメッセージを出すことも重要だと感じました。

実際にどのような効果が得られているのでしょうか。

松下 先日の中間報告にあった通り、2年間で超音波診断装置の総台数を114台から95台に最適化。稼働状況を基にハイエンドな機器を新規に導入することで医療の質向上にも寄与できました。

 さらに予想外の効果と言えるのが、救急外来におけるエコー検査の実施記録漏れが明らかになったこと。例えば外傷で来られた患者さんの場合、内部で出血していないか、腹部や胸部を超音波診断装置で検査するというのがルーチンになっています。本来は保険診療で診療費を請求できるのですが、これが多くはとられていなかった。過剰診療をしているのではなく、きちんと必要な検査をしていたのに、病院の収益から漏れていたわけです。これを改善するために新たにワーキンググループを立ち上げ、結果として年間800万円の算定漏れの改善を実現できました。

中島 これについては機器の選定にも問題があって、例えば放射線機器では撮影した画像データがすべて自動でサーバーに残る仕組みなのですが、救急外来で使われていた超音波診断装置は一度プリンターで印刷してそれを画像で取り込むといったとても面倒な作業が必要でした。そこで、救急の忙しい現場の方々が使いやすく算定しやすい仕組みを取り入れました。

経営企画部 部長の中島雄一氏

 これがきっかけになって病院内の各職場、職能の人間がつながり、改善に向けた取り組みを実施しやすくなったことも大きな効果だったと思います。

看護師側から「自分たちにセンサーを取り付けて」

このような算定漏れはほかの病院でもありえることでしょうか。

松下 十分にありえます。とくに救急外来の現場は時間に余裕がなく、ドクター個人の頑張りに依存していることも多い。例えば、超音波を当てて異常所見なしとなると、それで終わってしまっているケースがあるのではないでしょうか。

 ちなみに病棟で行われている超音波診断は救急外来と違い算定対象とはなりませんが、医療記録の正確性という面でも不完全と言えますので、やはり記録はきちんと残されるべきだと思います。

超音波診断装置以外の医療機器の購入にも活用する可能性はありますか。

和田 稼働実態の把握しにくさなどは超音波診断装置特有の問題で、まったく同じようにほかの機器も効率化できるかというと難しいのが実情です。しかし、稼働実績をきちんと把握して、機器を計画的に購入していく手法というのは他の機器にも生かせます。

 今回の取り組みでGEヘルスケアから色々な提案をいただいたなかで、医療機器の購入について5年間の計画を立てるというものもありました。きちんと計画を立てて投資を行うというのは企業では当たり前だと思うのですが、病院ではなかなかそういうことができていなかった。それぞれの診療科がいまどういう機器を持っていて、どう更新していくかきちんと計画を立てる。まだ道半ばではありますが、道筋ができたというのはとても意味があったと感じています。

 もちろん、まったくはじめてのことですし、いきなり現場に5年間の計画を立てろと言っても難しいので、サポートできることはしています。できるだけハードルを下げて、より申請しやすい仕組みを作っていくのも我々の義務であり責任だと思っています。

 病院内でもこれまで、こうしたらいいのではないか、といった発想は出るのですが実際にどのようなスケジュールでどう進めていくかとなると、ついつい途中で挫折したり、当初の思いのようにいかなかったりというケースが過去にたくさんありました。その点、GEヘルスケアはときに尻を叩いたり、お膳立てしてくれたりと我々を動かし、当初の計画通り仕組みを作れた。彼らのプロジェクトマネジメント力には、非常に感謝するところです。

人員配置の最適化などへの活用も考えていますか。

和田 病院内での看護師の配置などは特定のルールがあり、大きく動かせません。しかし、その中でも努力をして効率化を進めていかないと働き方を改善できないし、病院として生き残っていけない。データを把握したうえでそこから先はさらに泥臭い努力も必要になっていくと思います。

資材部 部長の和田龍夫氏

中島 実は今回の取り組みがキッカケとなって、看護師側から自分たちにセンサーを取り付けて動きを可視化してほしいという声が上がりトライアルを行いました。普通、センサーを取り付けて動きを把握するとなると抵抗が大きいと思うのですが、負担感が強く現場が改善に強い思いがあったこと、超音波診断装置での可視化に実績があったことで実現しました。

 看護師側から声が上がったこともすごいことだと思うのですが、さらに画期的だったのは、GEヘルスケアがすでに導入されている異なるメーカーの機器(セントラルモニタとベッドサイドモニタ)と看護師の動きを可視化し、分析してくれたこと。象徴的な取り組みでした。

機器にも一生がある

今後のビジョンを教えてください。

和田 我々資材部はこれまで、出てきた申請に対してこれまではどちらかと言うと抑制する立場にありました。しかし、私自身、そして部、病院全体としてもそうですが、優れた機器があってそれによってドクター、技師、看護師が喜びをもって患者さんに対応してもらえるのであれば、それは非常にうれしいこと。節度を持った投資という意識は当然必要ですが、喜びにつながる購買にしていきたい。まだまだスタートしたばかりで不十分なことも多いですが、その仕組みを作り上げていきたいです。

松下 実際に医療機器を使う現場、そして購入をする病院、さらには機器自体もよかったといえる「三方よし」を実現していければと思います。院内に設置していた「医療機器購入委員会」の名前も去年から変更し、シンプルに「医療機器委員会」としました。これには、購入だけではなくその後の使い方も含めて検討しようという思いが込められています。

 機器にも一生がある。お金のことだけでなく、十分に活躍をしてその一生を終えてもらいたいということで、購入してからの稼働状況、セカンドライフへの活用、廃棄の状況まで全過程に気を配って取り組んでいきたいと思います。

(タイトル部のImage:森田 靖)