今年中に男性型脱毛症を対象とした臨床研究を

 より実用化が近いとされるのが、毛髪の再生だ。体の諸器官を作り出す幹細胞は胎児期にのみ備わっているが、毛髪だけは別で、成体になっても周期的に再生を繰り返す。毛髪の再生にも、2種類の幹細胞が必要である。辻氏らは2012年、マウスの実験で、皮膚の毛包(毛をつくる器官)のバルジ領域から器官再生能を持つ上皮性幹細胞、毛乳頭から間葉系幹細胞を採取し、両者を組み合わせて二層構造の毛包の“種”を再生し、それを植えて毛髪を再生させることに成功している(図2)。

図2●細胞操作による毛包原基の再生

 実際には、種だけを植えると皮膚(切開部位)が閉じてしまい、健常な毛髪が生えてこなくなる。このため、手術用のナイロン糸を1本、種に埋め込んでおくと、そこが毛穴となって、糸は自動的に抜け、毛が生えてくる(図3)。

図3●再生毛髪原基移植による毛髪の再生

 ヒトでは、男性型脱毛症や先天性乏毛症、瘢痕性脱毛症などの治療を対象に、2019年中に大学病院で臨床研究を開始する予定で準備を進めている。将来的には「再生医療等製品」としての承認を目的とした治験の実施を考えている。男性型脱毛症の人向けには、自費で行う自由診療として一足早い実用化につなげ、希少疾患に対しては保険収載を目指す。

 2011年から7年がかりで製造法を確立しており、京セラとの共同研究で安定的な製造方法を開発し、製品の規格化にも成功している。

 辻氏は、「審美目的のQOL医療といわれる美容形成分野にも科学的にエビデンスのある再生治療を確立していきたい。毛包が再生できれば、同じ原理・原則に基づき、将来的に内臓諸器官の再生にもつなげられる」と意欲的だ。