毛髪分析で過去からの健康状態が分かる

 社会実装への道筋が明確に提示されている前出の3事業に加えて、新たに4本目の柱として模索、研究しているのが、毛髪からの健康診断である。2017年、理研のほか、民間企業19社の参加を得て、オープンイノベーションのコンソーシアムを立ち上げた。

 従来の健康診断は、採血など痛みや侵襲性を伴うにもかかわらず、日内変動が大きく安定性に課題がある。これに対して毛髪は、毛母細胞が分裂してできた、いわば細胞の標本であり、月に1cmほど伸びる。生体内で唯一、過去ログが長期にわたり保存される(図4)。

図4●毛髪の生物学的意義と位置情報による健康情報の蓄積

 毛髪の分析法には、形態分析と組成分析が実用化されている。前者は、毛髪の変形から、事件、事故などの法科学で利用される。一方、組成分析では、警察庁科学警察研究所や都道府県警の科学捜査研究所において薬物や麻薬などの摂取の解析を行っている。また、環境科学では重金属やミネラルなども解析されている。血液や尿中では薬物などは2週間で消失するものの、毛髪には代謝物が痕跡として過去ログに残っている。

 こうした分析は、健康診断にも応用できるはずだ。例えば、肝がんでは、毛髪中のカルシウム、糖、鉄が蓄積されるなど、いくつかの疾患で小規模化な報告がいくつかある。毛髪診断コンソーシアムは、毛髪の形態分析と組成分析について、2年がかりで健康データベースの構築と疾患の新規マーカーの同定を目指す。まず、健常者と病気の人の毛髪サンプルを形態分析するほか、組成解析としてアミノ酸、ミネラル、脂質、ホルモンなどの成分についてのデータベースを構築。健康や生活習慣に関する約200問のアンケートとも組み合わせる。発症前の段階で予兆が捉えられれば理想的である。

 毛髪健康診断の利用目的は、企業により、疾病予防やエイジング、ヘルスケア、ヘアケアなど、それぞれ異なる。企業が個人にあったソリューションを提案し、それを試してから、再び手軽に調べられるのが、毛髪の大きな利点である。

 器官の再生医療について、着想から20年近く研究をリードしてきた辻氏は、「健康医療において、豊かで健康になるように、あたかも車の自動運転のように人々の動線を変えたい。日本発の世界初のイノベーションで、グローバルに通用する研究開発の社会実装を目指す」と意気込みを語る。

(タイトル部のImage:行友重治が撮影)