現代の日本人女性のデータを使って、月経周期や基礎体温のデータを再定義する──。そんな研究が、2020年5月に始動した。東京大学 産科婦人科学教室と、女性向け健康サービス「ルナルナ」を手掛けるエムティーアイが厚生労働科学研究事業として行う。

 実は、月経周期に関する医学的な知見は約60年前からアップデートされていない。日本産科婦人科学会が正常だと定義している25~38日という月経周期は、1950年代の米国でのデータを参照しているのだ。しかも、調査対象者はわずか650人だった。

「ルナルナ 体温ノート」画面イメージ。研究には、「ルナルナ」アプリと「ルナルナ」Web、「ルナルナ 体温ノート」に記録されたデータを使う(出所:エムティーアイ)

 これを受けて、エムティーアイでは、ルナルナで蓄積したデータを使って月経に関する研究を実施。2019年5月からは、国立成育医療研究センターと共同研究を行い、2020年1月には第1弾の成果として、月経周期と季節や居住地、年齢の相関関係について報告した(関連記事:「ルナルナ」のビッグデータ解析で月経周期に新事実)。

 この研究では、ルナルナで記録された月経周期のデータから、月経周期には季節や居住地が一切影響しないことが分かったという。一方、年代ごとの月経周期には大きな違いがあることが明らかになった。現在は、第2弾として、月経周期に加えてストレスや体調不良の情報を加味して、月経と妊娠しやすさの関係について調査を進めている。

 今回、同社が東京大学と共同で行うのは、現代人女性のデータを使った月経周期と基礎体温のアップデートである。2015年1月1日~2019年12月31日までにルナルナに登録されたデータを使う。「少なくとも数万人のデータが使える」とエムティーアイ ヘルスケア事業本部 ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長の那須理紗氏は話す。

エムティーアイ ヘルスケア事業本部 ルナルナ事業統括部 ルナルナ事業部 副事業部長の那須理紗氏(写真:オンライン取材の画面キャプチャー)

妊娠や避妊、疾患の発見に使える指標

 月経周期や基礎体温は、「月経状態を把握することだけでなく、妊娠や避妊、疾患の発見にも使える指標」と東京大学 産科婦人科学教室 准教授の平池修氏は言う。つまり、女性の健康状態を把握するための重要なパラメーターである。それにも関わらず、かなり昔のデータを参照した値が正常値として用いられていることを、同氏は以前から課題視していたという。

東京大学 産科婦人科学教室 准教授の平池修氏(写真:オンライン取材の画面キャプチャー)

 ただし、月経に関するデータが全くアップデートされていないわけではない。例えば、初潮や初経に関するデータは最近もアジアや欧州では、複数の報告がされているという。これは、「ワンポイントの調査なので、データ収集が比較的容易だからではないか」と同氏は見る。

 これに対して月経周期や基礎体温のデータがアップデートされていなかったのは、長期間に渡ってデータを収集する必要があり、手間がかかることが大きな理由だった可能性がある。研究で使用するルナルナのデータは、クラウドに蓄積される仕組みが作られているため、簡便にビッグデータを扱うことができるというわけだ。なお、再定義に当たっては、「例えば“25~30歳の正常値”のように、階層化して再定義することを想定している」と同氏は話す。

「受診勧奨につなげたい」

「ルナルナ」アプリ画面イメージ。ホルモンバランスの状態(画面は黄体後期)に合わせたコンテンツが配信されている(出所:エムティーアイ)

 現代のライフスタイルを反映した再定義ができれば、「日本人女性により適切な啓発や教育、予防につなげられるのではないか」と那須氏は見ている。ルナルナでは、妊娠しやすいタイミングや生理日を予測して知らせたり、ホルモンバランスの変化による「黄体期」や「月経期」などの周期に応じたコンテンツ配信を行ったりしている。再定義した月経周期や基礎体温を活用して、こうしたサービスの拡充につなげていきたい考えだ。

 平池氏は、再定義した月経周期や基礎体温を使って、「受診勧奨につなげたい」と語る。より正確な数値が得られれば、正常値から外れた場合に適切な受診を勧めることができるからだ。「昔から言われていることが本当に正しいのか、現代に即しているのかという視点は常に必要。まずは真の正常値がどのくらいなのか調べていきたい」(同氏)と意気込んだ。

(タイトル部のImage:Beyond Healthが作成)