約4km2と全国で2番目に小さな奈良県三宅町。2期目を迎えた町長の森田浩司氏は、施策の柱に据えた子育て支援をはじめ、医療費抑制を目指す試みやまちづくりを担う人材の募集といった様々な面で、民間企業と積極的に連携している。規模の小ささを、ハンデではなく利点と考えて公民連携を推し進める森田氏に、その理由やこれまでの取り組み、そして今後のまちづくりについて聞いた。

(写真:水野浩志)

三宅町が、公民連携を推進する主な狙いは何でしょう。

 最近は、幸せの概念や価値観がひとそれぞれになってきたのに伴い、行政に対する住民のニーズが多様化してきました。行政は、これまでは無かったニーズにも対応していかなければなりません。行政マンは業務の性質上、経験を積み上げていくのは上手です。しかし、業務が多忙で新たな知識獲得を行う時間がなかなかとれず、新分野への挑戦は得意とはいえません。こういった行政が抱える課題を、民間企業が手掛けているサービスで解決できると気づかされることが何度もありました。

 行政は、民間のサービスと連携すれば、手間も暇もかけずに新たな事業を始めることができます。また民間企業は、ビジネスが住民の幸せにつながっているんだと感じられれば、自分ごととしてまちづくりに参画することができます。行政にも民間にも、良い効果が生まれると思い、公民連携を推進しています。

実証実験から小さくスタート

連携先を決める際に重視する条件とは。

 公平性を担保する必要はありますが、「やりたい」と言ってきた企業と連携するのが基本的な方針です。2つの会社が手を挙げたら、両方と連携すればいいわけですから。そのうえで、地域課題を解決しようという熱意があること。企業の知名度は二の次です。実際三宅町では、創業から時間がたっていないスタートアップ企業とも、いくつか連携しています。

実証実験として取り組んでいるレセプトや健診のデータを用いた生活習慣病の重症化リスクの分析も、そうした会社との連携です。

 あれは町の保健師の発案です。健診データから重症化リスクの度合いを分かりやすく表示。それを、例えば健診の結果説明の場で個々の町民に示し、危機感を感じることができれば、生活習慣の改善に取り組むようになるのではないか、というものでした。公民連携のスキームは町長の私が組みましたが、その後は担当職員に任せています。

実証実験からスタートさせた理由は。

 「うまくいかなかったらやめればいい」というのが、新たな事業を始める際の考え方です。多額の費用を投じることなく、実証実験から手間と費用をあまりかけずこぢんまりとスタートするのが得策だと思います。この点では、三宅町が小規模自治体なのがメリットになりますね。連携相手の企業も多くの人や資金をつぎ込まないで参加できますから。

 三宅町も高齢化率は4割に迫っています。健康状態の芳しくない人には危機感を持ってもらい、健康寿命を延ばせるような生活習慣の改善に取り組んでほしいと思います。

三宅町はスタートアップ企業とも積極的に連携してきた。写真はAnoter Worksとの包括連携協定の調印時のもの。左が三宅町長の森田浩司氏(提供:三宅町)
表1●三宅町の主な公民連携の取り組み
年・月 概要
2019年8月 妊娠期から1000日間の子育て支援「三宅町Co育てPROJECT」
2020年7月 紙おむつ持参不要の定額制サービス「手ぶら登園」
2020年10月 まちづくりを担う複業人材の登用に関する実証実験
2020年11月 健診データなどから生活習慣病重症化リスクを分析する実証実験

「手ぶら登園」のヒントは自らの経験から

三宅町(みやけちょう)
奈良県北西部にあり、面積約4km2と全国で2番目に小さい自治体。野球のグローブをはじめスポーツ用品の生産が盛ん。大阪のほぼ50km圏に位置し、京都へも電車で約1時間のためベッドタウンにもなっている。人口は6740人(2021年4月1日現在)。

子育て支援の分野では、まず江崎グリコと連携しました。

 三宅町の人口は1990年をピークに25年間で20%も減り、今6700人ほどです。減少のペースは鈍ってきていますが、下げ止まるところまではきていません。とりわけ14歳までの年少人口の減少が顕著なので、私は初当選以来、子育て支援を最重要施策の1つに掲げ、企業・団体とパートナーシップで子育て期の課題解決を目指してきました。江崎グリコさんは、その第1号パートナーです。

 具体的には、同社の妊娠期からの1000日間にわたる子育て支援ソリューション「Co育てPROJECT」の三宅町版に、2019年から取り組んできました。グリコが開発した夫婦間のコミュニケーションアプリについて、パンフレットやセミナーで啓発を図っています。加えて、夫婦共同での家事・育児を話し合うためのCo育てプログラムを、三宅町バージョンに改良して提供したり、同社の栄養士が、妊産婦・乳幼児向けの食事メニューを提案して母子手帳アプリで配信したりする──などを手掛けてきました。

大企業との連携は得るものが大きかったのではないでしょうか。

 企業と同じ目線で考えてほしかったので、役場の職員に会社に行ってもらい、大企業の第一線の仕事ぶりを学んでもらいました。その結果、職員の仕事ぶりに変化が感じられました。新しい事業を創り上げていく楽しさが分かったり、違う方法を試してみようという意識が芽生えたりしてきたと思います。

昨年から町内の公立保育園に導入された、紙おむつ持参不要の定額制サービス、「手ぶら登園」とはどのようなものですか。

 三宅町は、「保育士と保育の質に関する研究会」という学者が主宰する民間団体と子育て連携協定を結んでおり、そのアドバイスを受けて教育保育施設の環境整備に取り組んでいます。「手ぶら登園」はこの研究会の賛同パートナー企業、BABYJOBが提供しているサービスです。

 保育園がおむつの使用量や在庫をパソコンで管理し、サイズごとに必要な量のおむつを発注することで、保護者を登園・帰宅時のおむつの持ち運びから解放します。三宅町がサービスの運営会社と直接契約するので保護者に金銭的な負担は生じませんし、使用済みおむつは町が廃棄するので持ち帰る必要もなくなります。

(写真:水野浩志)

このようなサービスを導入されたきっかけは。

 実は私自身の体験がベースにあります。子どもが生まれ、毎日これほど多量の紙おむつが必要なのだと驚いたんです。子どもが保育園に通うようになると、毎日持参し持って帰ることが、保護者にとっていかに大変かに気づきました。新型コロナウイルスのことを考えれば、感染症対策としてもよいとはいえません。そこで、「手ぶら登園」サービスの導入を思いついたのです。コロナの緊急交付金を活用し、保護者の負担はなくすことができました。この取り組みは内閣府の地域未来構想オープンラボで先行事例として取り上げていただきました。

 最初は、「仕事が増えるのではないか」と、保育士の中に不満の声もありました。でも、スタートさせてみて、保育士から「業務にかかる時間が短縮でき、おむつの取り間違いという混乱もなくなったので、とても助かっています」と嬉しい声をいただき、保育士の負担軽減にもつながりました。

成果が見えると、現場の認識も変わってきますね。

 グリコとの連携でもそうでしたが、民間と連携することで、行政の当たり前を見直すきっかけになります。そして課題が解決することで、職員の意識にも変化が生まれるのです。これこそ公民連携の成果だと考えています。

 民間企業は必ず成果を求めます。期間を切って結果を出していく民間の手法は、いわば“成果の見える化”。議会や住民に説明し易いという利点があります。奈良県では、ごみ収集や水道といった事業で広域の自治体連携による取り組みが進んでいます。「広域化」と「個別自治体による民間連携」を組み合わせることで、小さな町でも、質の高い住民サービスを効率的に提供することができると考えています。

まちの変化を象徴する新しい複合施設

町役場の隣で、新しい建物の建設が進んでいますね。

 それは三宅町交流まちづくりセンター「MiiMo(みぃも)」です。今年7月にプレオープンを、12月にはグランドオープンを予定しています。老朽化や耐震強度不足で立て直しが求められている公民館や図書室、設置していた施設の耐震不足で現在小学校の教室を借りて行っている学童保育などが入る複合施設で、図に掲げるような諸機能を併せ持っています。子供も大人も自分事として関わり、町のみんなができること・やりたいことを積み重ねながら、「三宅町の未来を育むまちの拠点」になることを目指しています。

2021年7月にプレオープンする三宅町複合施設「MiiMo」(写真:三宅町)
複合施設「MiiMo」の機能イメージ。町役場に隣接し、公民館や学童保育をはじめ、図に示すような多様な機能を担うことで、町の将来を育む拠点になることを目標にする(資料:三宅町)

MiiMoの運営でも、民間の力を借りるのでしょうか。

 複合施設の運営は、役場職員、住民代表、関係組織などで構成する運営会議が行います。オープンを控え、その中心を担い、MiiMoを拠点に町が立ち上げる様々なプロジェクトを実現・推進していくコミュニティプロデューサーを公募しました。役場に所属しながら、行政と連携しつつ行政が不得意な部分の業務を手掛けてもらうつもりです。ほかにも仕事を持つ“複業”の人材を歓迎します。

 この人材募集にあたっては、外部人材の方と共に求人票の作成を行いました。複業マッチングプラットフォームを展開するスタートアップ企業と連携し行った実証実験の取り組みの1つです。計4回のウェブ説明会に、約80人の参加があり、シェアオフィスづくりを手掛けているとか、劇団で海外公演をしてきたといったユニークなスキルの持ち主が多く応募してくれました。面接で絞り込み、さらに町に来て公民連携の取り組みを見てもらったうえで、採用者を決定しました。

これから民間との連携を推進したい分野はありますか。

 教育、なかでも地域教育ですね。学びは人生をより豊かにすることができると思っています。また、私自身子どもの頃に世の中に色々な仕事があると知っていたらよかったと感じていて、キャリア教育が大切だと考えています。同じ想いを持った企業もあるので、公民連携で面白い取り組みができるのではと考えています。

 また、三宅町は野球で使うグローブの産地です。100年の歴史があるということでNHKに取り上げられたこともあります。住民が当たり前だと思っていた、まちの魅力が伝わることで、自分の住むまちの魅力に改めて気づき、まちをもっと好きになって自分のこととしてまちづくりに参加してくれるでしょう。そして最近よく耳にする「シビックプライド」が生まれるわけです。

 公民連携の様々な取り組みも、マスコミで取り上げられたり企業が広報したりすることを通して、その醸成に一役買うはずです。三宅町で育った子供たちにはぜひ世界に雄飛してほしい。でもこの町をずっと好きでいてほしいと願っています。

森田 浩司(もりた こうじ)
三宅町長
森田 浩司(もりた こうじ) 1984年奈良県磯城郡三宅町生まれ。大阪商業大学を卒業後、生協職員、国会議員秘書、三宅町議会議員などを経て、2016年に32歳の若さで三宅町長に初当選。2020年に再選。(写真:水野浩志)

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)


出典:「新・公民連携最前線」2021年6月7日付の記事より