2015年度から介護保険の予防サービスの一部が、市町村の総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)に移管された。これに伴い採算が合わない地域で介護事業者の撤退が相次ぎ、自治体を悩ませている。そんな中で愛知県豊明市は、多数の民間企業と協定を結んで介護保険外のサービス提供を図ることで、独自の介護予防・自立支援を展開している。介護費用の削減と地域経済の活性化の両方を狙った取り組みとして注目を集めている。

 名古屋市の南東部に接する愛知県豊明市は、7万人弱の人口を抱えるベッドタウンで、市内には在宅医療や介護にも力を入れる藤田医科大学がある。65歳以上の割合を示す高齢化率は25.2%で、75歳未満の前期高齢者が多く、これから医療・介護ニーズの急増が予想されている。

豊明市健康福祉部健康長寿課の窓口には、市と「公的保険外サービス創出・促進に関する協定」を締結した事業者のチラシが並べられている(写真:井上俊明、以下同)

 この豊明市では、市役所1階の健康福祉部健康長寿課の窓口に、天然温泉施設、買い物配達サービス、スポーツクラブ、歌謡教室など、様々な企業や団体のチラシが置いてある。豊明市と「公的保険外サービスの創出・促進に関する協定」を結んでいる事業者のものだ。豊明市は、民間事業者との連携を軸に、介護が必要な高齢者の増加を抑え、高齢者が自立して暮らせるまちづくりを進めている。

 「総合事業移管前の5年間で、介護予防に対する介護保険の給付費は通所介護が2.5倍、訪問介護が1.5倍に増えた。それでも、高齢者の心身の状態改善にはつながっていない。総合事業になってその伸び率を、後期高齢者数の伸び率である年5%以内に収めねばならなくなったが、それは困難だと思った」。豊明市健康福祉部健康長寿課の松本小牧氏はこう話す。

 そこで、介護保険に頼らない「公的(介護)保険外」という考え方を打ち出すことにしたという。健康寿命延伸に寄与したり、高齢者の生活を支援したりするサービスを民間の企業・団体に提供してもらうことで、介護保険のサービス利用者増加に歯止めをかけ、高齢者ができるだけ自力でいきいきと暮らせるまちにしていこうというわけだ。

連携した事業者の売り上げがアップ

豊明市健康長寿課課長補佐の松本小牧氏。「自立支援型の総合事業を思いついた直接のきっかけは、介護予防費用の急激な伸び」と話す

 公民連携のきっかけは2015年、隣の名古屋市緑区にある温泉施設「みどり楽の湯」の送迎バスが、市内を走っているのを市の職員が見かけたこと。豊明市内も巡回していたのだが、住民には知られておらず利用者は少なかった。「温泉施設なら、高齢者の外出先になり得る。運転免許を返上するなどして外出しづらい人でも、送迎つきなら利用できる」──。こう考えた松本氏らは、すぐに同温泉施設を経営するナカシロに連絡を取った。

 そして送迎バスの認知を高めるための住民向けのチラシや、販促用割引チケットを共同で製作、住民の集まる機会に市の職員が直接配布して周知を図った。これを受けてナカシロも、運行ルートの変更や手すりの設置などの手を打った。現在は、平日に1日3便、豊明市方面の無料送迎バスを運行している。

 駅前に店を構える生活協同組合コープあいちにも豊明市はアプローチした。この生協は食品などの宅配サービスを行っていたが、そのためにはマークシートに記入しなくてはならず、これが高齢者には大変だった。加えて、自分の目で実際に商品を見て購入したいが、重い荷物を持っては自宅の階段を上れないというジレンマに直面している高齢者も少なくなかった。

 そこで市がこれらの情報を生協側に伝えて検討した結果、店舗で購入した商品を無料で当日中に配達する「ふれあい便」のスタートにこぎ着けた。このサービスについて、市はケアマネジャーや地域包括支援センターを通じて高齢者に周知しその利用を促進した。

 これら豊明市との連携は、協力する事業者に売り上げ拡大をもたらしている。

 例えばみどり楽の湯は、「3カ月くらいで協力の効果が出始め、送迎バスの乗客数は1年後に倍、2年後には3倍になり、今も少しずつ増えている。高齢者の入浴料が安い“シルバーデイ”には、お年寄りが600~700人来るようになった」(ナカシロ温浴部次長の平山貴英氏)。特にお風呂が好きでなくても、知り合いに誘われて常連になる高齢者が目につくという。

 「高齢者の外出頻度を向上させるといった効果も出てきた。入浴と食事は生活に密着したサービスだから、既に朝食の提供を始めたほか、お湯の温度を低めにしたり血圧計を設置したりして、高齢者が安全に楽しめるようにしていきたい」と平山氏は意欲を見せる。

 コープあいちの「ふれあい便」は、協力開始10カ月後に利用者数が2.5倍に増加。客単価も17%増えた。