パブリッククラウドは社会のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するキーテクノロジーである。重要データの安全な保管、ワンストップでのサーバー導入・運用・管理に加え、事業の状況に応じた柔軟なスケーラビリティ(拡張可能性)、利用分のみ支払う従量課金などさまざまな特長がある。昨今ではAI(人工知能)や機械学習をはじめとする高度な計算資源も提供されており、自社で高額なコンピュータリソースを持たずともビジネスを回せるようになってきた。

 クラウドの機動性とコストメリットは、“ゼロイチ”でサービスを興すスタートアップにとって頼もしい武器となる。近年、とみに増えてきたヘルステックスタートアップも恩恵を受けており、迅速なサービス開発と改善にクラウドをフル活用している。

 代表格と言えるのが、パブリッククラウドのトップランナーである米アマゾンのアマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)だ。ヘルステックスタートアップでは、オンライン診療のMICIN、治療用アプリのCureApp、薬局向け電子サービスのカケハシ、AI画像解析のエルピクセルなど、伸び盛りの企業がAWSユーザーに名を連ねる。

 日本現地法人のAWSジャパンは、2021年6月16日に「社会的課題への糸口:医師起業とヘルステック~テクノロジーが加速させる医師の起業~」と題したオンラインセミナーを開催。実際に起業した医師である、アンター 代表取締役 中山 俊氏、コネクテッド・インダストリーズ 代表 園田正樹氏をゲストに迎えたセッションを展開した。

AWSジャパンのオンラインセミナーから。下部左が園田氏、下部中央がモデレーターを務めたAWSジャパン スタートアップ事業開発部 本部長の畑浩史氏、上部中央が中山氏、上部右が左近氏(出所:オンラインセミナーのスクリーンショット)

AWS採用スタートアップの有望株として示したのは…

 冒頭、AWSジャパン インダストリー事業開発部長の佐近康隆氏がヘルステックにおける最新のAWS活用動向を解説した。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の米モデルナ製ワクチン開発ではAWSが活躍し、従来の約10倍の早さで最初の臨床試験までたどり着いたと同氏はいう。ここではAWSのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)、AI、機械学習などが利用された。

 投資動向調査をもとにしたAWSの分析によれば、COVID-19の影響によって国内スタートアップへの投資金額は、2019年の2103億円から2020年には1462億円と30%以上減少した。しかしヘルスケア/ライフサイエンス関連スタートアップでは、2019年の265億円から2020年には294億円と約10%成長。全体の約2割を占めるまでになった。

 佐近氏は今後伸びそうな分野として創薬支援などのゲノム解析、医用画像のデータ転送・保管・解析を挙げた。AWSを採用するスタートアップの有望株として示したのが、自治医科大学発のDeepEyeVisionだ(関連記事:自治医大発ベンチャー1号が挑む! 「眼」の遠隔診断支援)。眼科向けの画像AI診断サービスを提供しており、オンプレミス(自社構築システム)の運用・管理から解放され研究・開発に専念できたほか、豊富な実装例に基づくAI学習コストの低さなどが導入効果として現れた。

「3省2ガイドライン」対応などをアピール

 加えて、AWSではセキュリティ・コンプライアンスを最優先事項としていると強調する。医療情報システムに関する厚生労働省、総務省、経済産業省が定めた「3省2ガイドライン」に対応し、「医療情報システム向けAWS利用リファレンス」をAWSパートナー各社にて改定・公開済みであることを説明。「政府情報システムのためのセキュリティ評価制度(ISMAP)にも登録されている。この点は大きな優位性だ」(佐近氏)とする。

テクノロジーのみならず、セキュリティ・コンプライアンス重視の姿勢も高く評価されている(出所:オンラインセミナーのスクリーンショット)

 セミナーに登壇したアンターは、Doctor to Doctor(DtoD)のオンラインサービス「AntaaQA」を主軸とするスタートアップ。医師が実名で登録し、オンライン上で医師同士が質問と回答を交換できる仕組みで、2020年5月には登録医師数が1万人を突破した。質問の内容は患者の症状、診療方針、研究、論文内容など多岐にわたる。

 2016年の起業時からAWSを採用するが、中山氏はその決め手を「3省2ガイドライン(当時は3省3ガイドライン)への対応、そしてスタートアップにとって相談しやすい空気があったこと」と話す。2020年5月24日に開催したDtoDの大規模オンラインカンファレンス「つながるちからフェス」は、急遽決定したにもかかわらず、配信システムなどでAWSが全面協力。15時間にもおよぶ生配信とアーカイブ提供をサポートした。中山氏は「AWSには自分たちのやりたいサービスをバックグラウンドでしっかり支えてくれる安心感がある」と語った。

*なお、セミナー後半に実施されたパネル討論の様子は第2弾記事でお伝えする。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)