医療費決済のキャッシュレス化の立ち遅れが指摘される中、新たなサービスの提供で注目を集めるベンチャー企業がある。福島県いわき市に本社を置くHealtheeOne(ヘルシーワン)だ。同社の総合決済サービス「HealtheeOneコレクト」を導入する医療機関が増えている。

往診にも決済用端末を携帯

 都内からJRの特急で2時間ほどの常磐線・湯本駅(福島県いわき市)。ここから車を走らせること10分、県道いわき石川線沿いの高台に建つ「いわきFCパーク」は、東北社会人サッカーリーグ1部に所属する「いわきFC」の商業施設複合型クラブハウスだ。今年1月に開業した「いわきFCクリニック」(齋田良知院長)は、その1階フロアにある。

 いわきFCクリニックは整骨院を併設した施設で、一般向けに整形外科の予約診療を行っている。スポーツドクターの育成を念頭に首都圏から若手のドクターを福島県に招聘、テレビ電話を通じて東京など遠隔地のベテランドクターに助言を仰げる体制を整えた。土日祝日の夜間には、福島県外から来院した医師が内科・小児科などの一次救急(入院や手術を伴わない診療)も担う。

 医師不足が深刻化するいわき市で、地域医療の新形態として注目を集める同クリニック。音声入力で患者の細かい症状が記録できるタブレット端末を用い、診療記録はクラウドを通じて共有できるなど最新鋭の設備を備えている。多様な決済手段もその1つだ。クレジットカード決済やQRコード決済にも対応し、一次救急の往診にも決済用の端末を携帯する。「利用者はスポーツ診療が中心で、財布を持ち歩く習慣のない20代の患者が多い」(同クリニック)。キャッシュレス決済の利用率は約15%に上る。

 同クリニックのIT支援を行うのが、いわき市に本社を置くベンチャー企業、HealtheeOne(小柳正和社長)。同社の総合決済サービス「HealtheeOneコレクト」は、患者に対してクレジットカード、電子マネー、QRコードなど多様なキャッシュレスの決済手段を提供しつつ、クリニックが保有する診療報酬債権の立て替えや回収を請け負うもの。「首都圏を中心に全国の病院、クリニック、薬局などで採用され、現在も1日数件の問い合わせがある」(小柳社長)という。

いわきFCクリニック、いわきFCリカバリーステーション(整骨院)のスタッフらと小柳社長(右から3人目)(写真:福知 彰子)

 QRコード決済は提供会社により規格が異なるため、従来は複数の端末を置いたり、取り扱いが増えるごとに端末を改修したりする必要があった。そこで同社ではパートナー企業の協力を得て、クレジットカードや電子マネーを含めた提携会社の全決済に対応する専用端末を開発。導入機関側の初期投資費用はこの端末代で、1台につき7万円(税別)かかる程度だ。

HealtheeOneコレクトで利用可能な決済(2019年1月現在)
保険診療の際にはポイントでの支払いを利用することは認められていない(表:Beyond Healthが作成)

キャッシュレス決済への誤解

 小売りや飲食業を中心にQRコード決済の導入が加速する中、医療機関はキャッシュレス化の立ち遅れが目立つ。

 総合病院や大学病院の多くはクレジットカード決済が可能になり、iD、Suica、nanaco、楽天Edyなどの電子マネーに対応する施設も増えてきた。医療費独特の後払いサービス(医療費あと払い、CADA決済)もある。半面、中小医療機関の大半は、依然として“窓口での現金払いオンリー”という状況が続いている。お医者さん探しサイト「病院なび」によれば、2019年6月末現在でクレジットカードが使える病院・クリニックは全国で1700軒に届いていない。

 中小医療機関でキャッシュレス化が進まない理由を、小柳社長は「一番大きいのは決済手数料の問題」と指摘する。個人経営のクリニックなどは、クレジットカード会社の信用審査で割高な手数料を設定されてしまう可能性がある。HealtheeOneコレクトでは、クレジットカード会社との交渉で手数料を3.0~3.5%程度に抑えた(審査により異なる)。

 さらに、「決済手数料が何に対してかかるのかよく分からないという声も多かった。医業収益の総額の3.0~3.5%を持っていかれると誤解していたケースもある」(小柳社長)。

キャッシュレス決済の手数料モデルケース(月間)―内科 外来―
モデルケースの手数料は3万1200円。医業収益が520万円の場合、キャッシュレス決済割合と手数料率を高めに見積もっても、手数料は0.6%相当(表:HealtheeOneの資料を基にBeyond Healthが作成)

 実際に手数料の対象となるのは、患者が支払った医療費の自己負担分(基本は3割)のうちキャッシュレス決済を利用した金額だ。小柳社長は上表のようなシミュレーションを示しながら、手数料の負担感を説明しているという。医業収益が月520万円で手数料率が4%の場合、キャッシュレス割合が50%に達したとしても、手数料は3万円程度ですむ計算だ。

決済の多様化は貸し倒れの自己防衛

 キャッシュレス決済は、医療機関の未収金対策としての役割も期待される。

 厚生労働省が2018年に行った外国人の医療費支払いに関する調査によると、回答した病院の18.9%に当たる372軒で約3000件の未払いがあった。未収金の平均額は42万円で、最高額は1423万円。自由民主党の外国人観光客に対する医療プロジェクトチームが6月にまとめた提言にも、未収金対策として「キャッシュレス化を含めた医療機関向け支払い支援の整備」が盛り込まれている。

(写真:福知 彰子)

 そもそも、医療費の未収金は全国で累計1000億円超との見方もあり、病院やクリニックの経営を圧迫している。厚生労働省医政局の委託調査(対象期間は2018年10~11月)では、半数以上の医療機関で5%以上20%未満の患者に未収金が発生している。「保険診療の自己負担金が回収できず貸し倒れになると、医療費の値引き行為と見なされ、法令に抵触する可能性もある。医師が患者の命に関わる治療を優先するのはやむを得ないことで、その結果、コンプライアンス体制を問われるのではあまりに理不尽」(小柳社長)。

 戸別訪問などによる未払い料金の回収業務は、医療従事者の時間を奪うのみならず、精神的なストレスにもなる。小柳社長は「医療機関におけるキャッシュレス対応のメリットは、患者の満足度向上だけに止まらない。貸し倒れの自己防衛策としての期待も大きい」とした上で、「未収金や債権管理コストの削減額も視野に入れ、これらの効果がキャッシュレス決済導入による追加コスト(手数料負担)を上回るのであれば、システムの導入を前向きに検討してほしい」と話す。

(タイトル部のImage:福知 彰子)