日常生活にトレーニングをどう組み込むか

最近、高齢者の運転ミスによる事故がマスメディアなどで大きく取り上げられています。このような現状に対して、明るい材料を提示したと言えそうですね。

野内 日本の高齢化に沿って、高齢者ドライバーが増えていることは間違いありません。高齢になると認知機能はどうしても下がる傾向にあります。高齢者の運転についてはいろいろな意見があるでしょうが、特に地方において自動車は生活に欠かせない道具ですから、いきなり自動車を手放すわけにもいきません。また、特に高齢者にとって自動車は社会的なつながりを確保する重要な手段にもなっています。

 以前から加齢医学研究所では「スマートエイジング」という考え方を提唱してきました。いろいろな研究の結果、適切なトレーニングを重ねれば、年齢を重ねても健康で楽しく過ごせるし、しかも歳をとってからでも変わることができるということが分かってきました。そのような研究成果を広く世間に実装するべく、ゲームの「脳トレ」やフィットネスプログラムなど、多くの方が日常で取り組めるような手段を提供してきました。

 今回、トレーニングアプリをテレビとリモコンで実施できるようにしたのも、日常生活とトレーニングを継ぎ目なくし、日常生活にビルトインできるようにしようという意図からです。

ダイエットや運動と同じで、せっかく効果が見込めるトレーニングであったとしても、やらなければ意味がありません。今回の研究も、なるべく日常生活の延長線上でできるようなトレーニングで、どれだけ効果が見込めるかを検証しようという意図があったわけですね。

野内 はい。最近のゲーム機やタブレット機などは、そうはいっても高齢者の方に用意していただくのはハードルが高い。その点、テレビであればだいたいどの家庭にもありますし、高齢者の方にとっても違和感がありません。最初にセットトップボックスと通信用のポケットWiFiを繋げていただくことが必要ですが、それ以外に特別な操作は必要ありません。高齢者の方が日常で実施できるようにするというのは、今回の共同研究の主体である仙台放送ともこだわったポイントの1つです。

 欧米でも同種の研究があるのですが、そちらは専用のドライビングシミュレーターを使っています。これだとコストがかかりますし、高齢者の方にはシミュレーターがある場所まで来ていただかなくてはいけません。

 ひるがえって本来的なところから考えますと、高齢者の方には定期的に自動車教習所に行っていただいて、運転のトレーニングを直接受けていただくのが一番かもしれません。けれども、コスト効果を考えると、やはりそれは現実的ではありません。

 繰り返しになりますが、なるべく気軽に取り組めて、しかも日常生活の中で楽しんで続けられるものにする、かつそれが根拠のある手法に基づいたものであるということが、こうしたトレーニングのポイントになるでしょう。

この研究の今後の課題や、展望について聞かせてください。

野内 交通事故の減少など、実際の交通における事象にどう影響したかを見ていく必要があると思っています。これからますます高齢化が進んでいきますから、高齢者の運転技能のトレーニング効果について、長期にわたって調査をしていくことの社会的なインパクトは大きい。チャレンジのしがいがある領域だと思っています。

 あとは、このようなトレーニングアプリをいかに地域社会に浸透させていくかです。トレーニングという観点で見ると、「一家に一台」にして毎日少しずつできるようにするのが理想です。ただ、まずは高齢者の方が集まりやすい場所や、市役所や地域の公共施設などに設置して、立ち寄ったときに気軽にプレイできるようにするのが第一歩だと思っています。

(タイトル部のImage:Beyond Healthが撮影)