近年、その数が増加しているとされる発達障がい(神経発達症)。背景には、診断名がつくケースが増えただけでなく、社会の不寛容や偏見、社会的障壁が大きく絡んでいるという。早期の段階で子どもがこの世界をどのように見ているかを親が理解することで、発達障がいを「困ったもの」とみなすのでなく、子どもの特性の一つととらえ、社会性を育む出発点にする――。そんな新たなツール「かおTV」の開発者の一人、大阪大学大学院片山泰一教授に開発の経緯を聞いた。

乳幼児が何をどう見ているかがその場でわかる「かおTV」
幼児の社会性を客観的に測定することを目的とし、大阪大学大学院大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学連合小児発達学研究科とJVCケンウッドが共同で開発。約2分間のうちに、人物と幾何学模様など5タイプの動画が提示され、結果はすぐ確認できる。この測定をもとに保護者と支援者が子どもの発達の状態を共有し理解するツールが「かおTV」。片山教授が代表を務める公益社団法人子どもの発達科学研究所は、このノウハウを現場で正しく使い、親に適切に説明できる「かおTVオペレーター」を育成している(画像提供:片山教授)

 「発達障がいの子どもが増えている」──。この言葉を、あなたはどう受け取るだろうか。生物学的に増加しているという研究報告の他、障がい名への社会の認知度が上がり、診断名がつくケースが増えたという意見もあるが、「社会の不寛容さが本人の生きづらさを増幅させて、不登校や引きこもりなど社会への不適応を顕在化するケースが増えています」と大阪大学大学院連合小児発達学研究科の片山泰一教授は話す。

 また、発達障がいの可能性ありと言われても、「親自身が発達障がいをネガティブにとらえ、認めたがらないことから療育(治療的教育)のスタートが遅れたり、診断された後の先行きが不透明なままであったりすると、診断されたことすら意味のないことになってしまう。このように、発達障がいの子の増加には複雑な要因が絡み合っていると考えられます」(片山教授)。

 発達障がいの中で、最も研究が進み、対人コミュニケーションが苦手といった特性を持つのが、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)だ。ASDには、「社会的コミュニケーションが難しい」「特定のものにこだわる」「聴覚、視覚、触覚、味覚などの感覚にきわめて敏感あるいは鈍感である」といった特性が見られる。これらの要素の全てを持ち合わせる人から、一部であっても程度が極端である人まで、十人十色だ。

 ASDの特性は脳の神経回路の違いによるもので、行動、感覚、会話などの表現型が定型の子どもたちと異なる。このため、わが子を理解するのが難しくなり、「他の子より子育てが困難」と保護者の負担感が増えたり、集団生活への不適応を起こしやすくしたりする。

 ASD特有の「生きづらさ」を改善するには、早期のうちに脳の特性に気づくこと、あわせて、親や周囲、社会が正しく特性を理解し、その子自身が社会性を育むやり方をサポートする必要がある。その出発点として、片山教授らが社会実装を試みているのが、その子が見るものを「見える化」して、周囲の理解と受容を促す「かおTV」だ。

わずか2分「見るだけ」で乳幼児の「脳の特性」をとらえる

 「かおTV」は、カメラと一体化したモニターを見つめることで、赤外線カメラが注視点の分布を計測する。JVCケンウッドと浜松医科大学が開発した視線計測装置「Gazefinder(ゲイズファインダー)」の技術を使っている。1歳半~2歳の乳幼児を想定して開発したツールで、母親のひざに座った子がモニター画面に映し出された人の顔や幾何学模様などの動画を2分ほど見つめると、画面に「何に目を向けたか」の軌跡が映し出される。

 先行研究によって、ASDが疑われる乳幼児では、人物よりも幾何学模様に関心を示すことが報告されている。開発者らは、2~18歳のASDの子ども83名および定型発達の子ども307名を対象にした研究で、ASDでは人物への関心が低くなることを「Gazefinder」で確認1)。また、思春期、青年期のASD診断補助機器としても有用である可能性を確認している2)

 「かおTV」で視点の分布を顕在化することで、ASD診断のための他の検査の結果を客観的に補強し、正確な診断の助けになることが医療現場では今後期待される。だがその前に、「かおTVは、ASDを抽出し、診断するための検査装置ではありません。障がいの傾向のあるなしに関わらず、保護者がその子の見ている世界を知り、その特性を、ネガティブにではなく“その子らしさ”と受け容れる最初の入り口にしたい」と、片山教授は強調する。