死を察知する看取り犬・文福

 19匹いる動物たちの中でも、ひときわ目立つのが冒頭でも紹介した雑種犬の文福だ。施設がオープンした当初からここで飼われている。動物保護のボランティア団体から紹介されて迎え入れたのだが、文福は殺処分の寸前に保健所から引き取られたという過去を持つ犬である。

 「野良犬として保健所に届けられ、ガス室に送り込まれる前日にお付き合いのあるボランティア団体の方が知らせてくれて、うちで引き取ることになったのです。そういう意味では、文福は死の淵を覗き込んだ経験のある犬なんです」

ユニット内でわがもの顔の文福(写真提供:さくらの里山科)
ユニット内でわがもの顔の文福(写真提供:さくらの里山科)
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 そうした過去を背負っているからなのか、文福は他にはない不思議な能力を持っている。

 「文福は、お看取りが近い方のことがわかるのです」

 特別養護老人ホームは原則として要介護3からでしか入居することができない。入居者は必然的に高齢で認知症や生活習慣病など様々な病気を抱えている場合が多い。そうしたこともあり、施設での看取りは珍しくない。

 先にも記したとおり、さくらの里山科の2階にある4ユニットは、猫や犬といっしょに暮らすことができる。同施設がオープンして2年ほど経過した頃、職員の一人こんなことをつぶやいた。

 ──文ちゃん、ご利用者が亡くなる寸前になるとそのベッドから離れないのよね──

 注意して見ていると確かに文福は人の死を察知することができるとしか思えないような行動を取ることがわかってきた。

 「亡くなる3日くらい前になると、その方のドアの前に陣取るようになり、1、2日前になるとベッドに上がって寄り添うようになるのです。誰が教えたわけでもないのに、本当に不思議なことです」

利用者のベッドに上がり込む文福。これはお看取りではなくただ甘えているだけ(写真提供:さくらの里山科)
利用者のベッドに上がり込む文福。これはお看取りではなくただ甘えているだけ(写真提供:さくらの里山科)
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 文福自身、保健所で死の間際を経験し、殺処分になる仲間たちの最期の叫びを間近に聞いたという経験があるからこそ、死に臨む者のことがわかるのだろう。施設のスタッフたちはそう口を揃える。