「感度」は17ポイント、「特異度」は8ポイント改善

 「もともとパソコンオタクだった」という井上氏は、2016年からAIについて本格的な勉強を始め、AI診断の開発に取り組んだ。湘南記念病院乳がんセンターで撮影したマンモグラフィ画像のうち、「乳がん」「良性腫瘍」「正常組織」の3タイプ、合計4万7282枚を切り出し画像にし、畳み込みニューラルネットワークを用いてAIに学習させた。

 その結果、AIの自動判定によってがんを正しく見つけられる感度は93.9%、がんでないものを正しく判定できる特異度は99.2%という学習結果が得られた。「かなりいい成績なのではないかと思っている」と井上氏は自信をのぞかせる。AIが判定した結果は下の画像のように、がんのある部位が赤くなるようにプログラムされているので、乳がんの有無が一目瞭然だ。

AIが画像を自動判定し、乳がんのある部位を赤く示す。がんを正しく見つけられる確率は9割以上(図:井上氏提供の画像を基にBeyond Healthが作成)

 それにしてもAIはどうやって「雪山」のような乳房から「白うさぎ」ならぬ乳がんを見つけ出しているのか。「AIが見ているのは、人間の目では判別できない画像上の微妙な白さや明るさの違い。それらを鋭敏に捉えて、がんであるかどうかを鑑別していると考えられる」(井上氏)。

 このAI診断は、井上氏が所属している湘南記念病院で撮影されたマンモグラフィ画像を元に構築された。しかし、日本では10社ほどがマンモグラフィを販売しており、メーカーによって画像の調整や仕上がりに微妙な違いがあるという。そこで井上氏らは、AIがどのメーカーの画像でも高い確率で判別できるようにするため、特定非営利活動法人「神奈川乳癌研究グループ」による多施設共同研究にも取り組んでいる(代表は聖隷横浜病院乳腺科・徳田裕医師)。

 乳がん検診を行っている神奈川県下の18医療機関が参加し、各医療機関で撮影されたマンモグラフィ画像を一括してAIに学習させ、メーカーの異なる画像でも高精度で自動判定できるようにするわけだ。「今年前半には終了予定で、今年度中の学会発表、ないしは論文投稿を目指している」(井上氏)。

 同様の研究は全国規模でも進行中だ。こちらは「ディープラーニングを用いたコンピューター自動診断システム(DLADs)」の臨床試験で、国立がん研究センター東病院乳腺・腫瘍内科 医師の向井博文氏が代表を務める。全国の医療機関からマンモグラフィ画像を集め、一気にAI診断の精度を高めていこうというものだ。もちろん、井上氏も参加している。

5年後の実用臨床目指し、ビジネスパートナーを募集中

井上氏(写真:加藤 康)

 マンモグラフィ検査については欧米諸国でもAIによる診断システムが構築されているが、大きくて脂肪の多い欧米女性の乳房画像で学習したAI診断が、日本でも同様の精度で役に立つかどうかはわからない。「だからこそ、日本人の日本人による日本人のためのAI診断を開発したい。データ収集と開発に2年、健康保険の承認に1年、企業とのコラボやAI診断の精度検証に2年、合計で5年後には臨床現場で使えるようになることを目標にしている」と井上氏は意気込む。

 実際の方法としては、ソフトウエアのような形で病院のパソコンにインストールしたり、Web APIを使ってインターネット上で画像をアップロードしたりする方法が考えられるという。いずれも従来のインフラをそのまま使え、パソコン1台あれば容易に導入できるのが強み。井上氏は実現化に向け、ビジネスパートナーを募集中だという。

 「マンモグラフィの読影に慣れていない医師にとって、AI診断は大きな助けになる。今後、乳がん検診にAI診断が活用されるようになれば、全国平均の感度が90%くらいにまで引き上げられるようになるかもしれない。また現在、読影は2人の医師が行っているが、一次読影をAIが担い、二次読影を読影医師が担当するというやり方も可能だろう。そうすると人件費が半分になり、読影日数も短縮して、検診システムの効率化にもつながる」と井上氏は語る。