北⾥⼤学発のスタートアップであるPhysiologas Technologies。「在宅透析」に向けた装置を開発するスタートアップだ。その装置は、給⽔配管・排⽔配管が不要かつ小型であることが特徴。在宅透析向け装置を開発する企業は海外で登場してきているものの、⽔道配管レスの装置開発に成功すれば「世界初になる」(同社)という。このほど1億4000万円のシードラウンド資⾦調達を完了したばかりの同社に話を聞いた(関連記事:「在宅透析」目指す北里大発スタートアップ、資金調達でプロトタイプ開発へ)。

 「医療機関で透析を受けると浴槽一杯に近い毎回120Lの水を使う必要があるが、それを5L以下に減らすことを可能にする新しい透析のデバイスを開発している」。2020年3月に北里大学発のベンチャーとして創業したPhysiologas Technologies(以下、フィジオロガス)取締役の小久保謙一氏はこう話す。

 小久保氏は北里大学医療衛生学部(臨床工学)の准教授。フィジオロガスは小久保氏の研究成果を基に設立された会社で、小久保氏自身、取締役として経営にも参画する。

小久保謙一氏(写真:秋元 忍、以下同)

 現在、国内で透析治療を受ける慢性腎臓病患者の数は約34万人に上る。多くの場合、患者は医療機関に週に3回通院して1回当たり4時間ほどの血液透析治療を受け続ける必要がある。

 医療機関には大型の血液透析装置が設置されており、治療に必要な透析液は、水処理装置を通った綺麗な水と透析剤を混ぜて作成する。透析液は再利用できないため、大量の水が必要となる。

 フィジオロガスが実現を目指すのは、透析液を再利用し、大量の水を不要とすること。そうして、透析治療をわざわざ通院しなくても、自宅で受けやすくすることだ。

 「在宅で血液透析を受けることで、通院の必要がなくなり生活の自由が増える。透析回数も増やしやすくなり体の毒素が十分に除去されて体調もよくなる。結果、透析治療導入前と同じ水準のQOLを保てる」と、小久保氏は期待を込める。

在宅透析のボトルネック解消狙う

 現状でも、在宅で透析治療を受けている患者はいるが、その数はごく限られる。血液透析を受ける場合、現在は在宅専用の装置がないため、医療機関向けの大型装置を水処理装置と共に自宅に持ち込む必要がある。また大量の水を使うので、医療機関で治療を受ければ自己負担がない水使用料を月数万円も支払う必要も出てくる。

 医療機関にとっても在宅で血液透析を受けたい患者に対応する場合は、事前トレーニングのほか、装置搬入や点検のための職員の派遣、さらには自宅で配水管が詰まった場合の緊急対応なども想定されるため、管理の手間を敬遠して積極的になりづらい。

 こうしたハードルがあるために在宅での血液透析を選ぶ人は増えていない。2019年の日本透析医学会の統計によると、その数は760人にとどまる。

 血液透析以外に自宅で受けられる腹膜透析もあるが、こちらは「腹膜荒廃」と呼ばれる臓器への負担があり、8年以上の継続が難しい課題がある。利用者も9920人と全体から見れば少ない。

 小久保氏らは、透析液の再利用により水の使用を減らし、さらに小型デバイスの開発も進めることで、課題を解決しようと考えている。「在宅で受けている人はいいとわかっているが、在宅治療の専用装置がないため、在宅透析は増えてこなかった。そうした状況を変えていきたい」と、小久保氏は言う。

生理活性を持つガスに着目

 フィジオロガスの社名は、「生理学」を意味する「フィジオロジー(physiology)」に、空気を意味する「ガス(gas)」を組み合わせている。「生理活性」を持った「ガス」を医療に応用して、新たな治療デバイスなどを作っていくことを企図して名付けたのだという。

 例えば、一酸化窒素や硫化水素などのガスには、血管の弛緩や血小板の活性化抑制、細胞保護などの効果があることが知られている。こうした生理活性ガスの医療応用に関する研究は、もともと北里大学の現理事長である小林弘祐氏が取り組んでおり、小久保氏も小林氏と共に10年近く実用化も見据えて研究を進めていた。

 今回、小久保氏が⼩型透析装置の開発にあたり着目したのは、血液浄化の際に使われる人工生体膜とガスを組み合わせた技術開発。「人工生体膜を長期間使用し続けると、生体不適合が起きて機能が低下し、使えなくなる。ガスの生理活性により、膜の機能を保つことができると考えられるので、それを使うことにした」と小久保氏は説明する。

 開発を目指す装置のイメージは下図の通り。⽔道配管レスやデバイスの⼤幅な⼩型化を予定しており、可搬式で長期間・多回数の使用に耐えうるものにする考えだ。

装置本体イメージ(出所:フィジオロガス)

将来的には海外展開も視野

 実際の製品化に向けて、フィジオロガスでは先ごろ1億4000万円のシードラウンド資⾦調達を完了した(関連記事)。同社代表取締役の宮脇一嘉氏によると、目標としていたのは1億円。そこから4000万円を上積みできたのは、新タイプの在宅透析装置に対する期待の表れと言える。「投資していただいた方々には、『日本の大学の研究者は正当に評価されていない。世の中に技術を送り出してほしいし、ぜひ応援したい』というありがたい言葉をいただいた」と、宮脇氏も手ごたえを感じている。

宮脇一嘉氏

 この先の同社の開発スケジュールは次の通り。2021年~2022年にかけて具体的な設計を進め、2022年中に初期型を完成。その後は改良や試験を重ね、2025年前半の上市を目標としている。

 上市したら、まずは東京、名古屋、大阪、福岡といった都市圏で事業を展開し、拡大していく。さらに、「将来的には水道設備の普及が遅れるなどして透析液の確保が難しい海外の国々への国際進出も見据えている」と宮脇氏は語る。

 在宅透析向け装置を開発する企業は海外で登場してきているものの、宮脇氏によると、⽔道配管レスの装置開発に成功すれば「世界初になる」という。

 日本発の研究成果が海を渡ることになるのか。今後の動向が注目される。

(タイトル部のImage:秋元 忍)