バイタルデータを計測するスマートウォッチやスマートトラッカー(活動量計)はすっかりおなじみになったが、煩わしいのが充電作業だ。こうした課題に対して、充電不要のトラッカーがいよいよ登場する。メディロムが実用化する「MOTHER Bracelet(マザー ブレスレット)」だ。体温による「温度差発電」と太陽光発電により電力を得るのが特徴。さらに、SDK(ソフトウエア開発キット)を開放することで、用途別アプリの拡大にも力を入れている。24時間連続着用が可能になり、他社による業務用アプリなどの開発がしやすくなることで、新薬開発やリハビリなどの治療方法の検証といった医療分野での活用にも期待が集まる。

 まずは、クラウドファンディングサイト「Makuake」を通じて、MOTHER Braceletの先行予約が2021年7月7日に始まった。一般販売予定価格を4万4000円(税込)としており、2021年末の出荷を予定している。同サイトでは初日で400人からの支援を得て応援購入金額が2000万円を突破するなど、注目を集めている。

充電不要の「MOTHER Bracelet (マザー ブレスレット)」(プロトタイプのため、最終製品とは異なる可能性がある)。同トラッカーは熱電変換による「温度差発電」と太陽光発電による電力で動く(撮影:加藤 康、以下同)
充電不要の「MOTHER Bracelet (マザー ブレスレット)」(プロトタイプのため、最終製品とは異なる可能性がある)。同トラッカーは熱電変換による「温度差発電」と太陽光発電による電力で動く(撮影:加藤 康、以下同)
[画像のクリックで拡大表示]

 このデバイスを開発したメディロムは、リラクゼーションサロン「Re.Ra.Ku」を展開するスタートアップ企業。数年前に本格的にヘルステック領域に参入し、今回の製品開発を進めていた(開発の経緯などは後編記事を参照)。

エネルギー源は着用者の体温と太陽光

 MOTHER Braceletの主な特徴は2つある。(1)充電不要であること、(2)SDK(ソフトウエア開発キット)を開放することだ。

 (1)の充電不要の代わりにエネルギー源とするのは、着用者の体温と太陽光である。製品の本体には熱電変換素子と太陽光パネルを搭載する。充電のために外す必要がなく、5気圧防水で入浴時なども着用できるとしており、歩数、睡眠、体表温、心拍数、消費カロリーといったバイタルデータ(生体情報)を常に計測し続けることが可能とする。

時計のフェイスのように見える部分は太陽光パネル。データの表示機能があるとスマホアプリと連携する機会が減ることもあり、表示機能は省いたという(写真の製品および箱はプロトタイプのため、最終製品とな異なる可能性がある)
時計のフェイスのように見える部分は太陽光パネル。データの表示機能があるとスマホアプリと連携する機会が減ることもあり、表示機能は省いたという(写真の製品および箱はプロトタイプのため、最終製品とな異なる可能性がある)
[画像のクリックで拡大表示]

 体温による発電技術には、米MATRIX Industries社の「温度差発電」技術を採用する。熱エネルギーを電力として出力する、いわゆる「熱電変換」技術だが、同社が提供するモジュールは0.5℃といった小さな温度差で起動できる点を特徴とする。ただし、夏場は体温と外気温との温度差が小さくなり、十分な発電量を確保するのが難しい。そこで夏場の強い日差しを活用できる太陽光発電を組み合わせるというわけだ。冬場は逆に太陽光発電量は減る可能性が高いが、体温と外気温との温度差を確保しやすくなる。

 MATRIX Industries社自身、充電不要のスマートウォッチとして熱電変換を使った「PowerWatch」を2018年に、熱電変換と太陽光発電を組み合わせた「Power Watch Series2」を2019年に実用化している。

 メディロムのMOTHER Braceletでは、トラッカー機能に特化することでPower Watch Series2との差異化を図っている。例えば、MOTHER Braceletで時計のフェイス(文字盤)のように見える部分は、ディスプレーではなく太陽光パネルである。本体の状態表示などに使うのはLEDによる光のみで、時計やデータの表示機能や通知機能は省いた。「通知や表示のために光ったり振動したりすると、睡眠を妨げることにもなる。常に着用するトラッカーとして、こうした機能は削ぎ落した」(メディロム 代表取締役 CEOの江口康二氏)。

メディロム 代表取締役 CEOの江口氏
メディロム 代表取締役 CEOの江口氏
[画像のクリックで拡大表示]

 消費電力量を抑えることで、Power Watch Series2と比べて大幅な小型化を実現した。外形寸法は40mm×12.5mm×23mmで、プロトタイプの重さは18g(本体のみ、付属バンドを装着した状態では30g)とする。MATRIX Industries社のモジュール「Matrix Prometheus module」として第3弾となる最小の熱電変換モジュールを世界で初めて採用した。

 メディロムでは日本・アジア地域におけるトラッカーに向けた温度差発電技術の独占利用権を取得しているという。こうした関係は、同社がMATRIX Industries社の株を取得することで実現しているという。

常時着用可だから医療介護分野にも向く

 (2)の特徴がSDKを開放する点だ。現在の多くのスマートトラッカーは、API(Application Programing Interface)で他社のアプリと連携する形を採用する。そのため、トラッカーからのデータを他社のアプリで利用する場合、一旦スマホのトラッカー専用アプリを開いてトラッカーのデータをスマホアプリを介してクラウド上に上げ、そのクラウド上のデータを他社のアプリで読み込む、といった複雑な作業が必要になる。ユーザーが他社アプリを使いたい場合も、データの吸い出しのためにはトラッカー専用アプリを都度開いてトラッカーと連携させる必要が生じる。

 トラッカーはあくまで計測機器であり、そのデータはユーザーに合わせた多様な用途に向けて活用することができる。しかし、トラッカーのメーカーが多様な用途に向けたアプリを複数用意するのは難しい。とはいえ、API連携では前述のようなアプリの二重利用が必要になるため、現状ではトラッカーに関する他社製アプリの利用はそれほど活発化していない。

 そこでメディロムは、SDKを開放することで様々な企業が特定用途に特化したアプリを開発できるようにした。直接他社アプリでデータを吸い出すことが可能となり、ユーザーにアプリの2重利用を強いる必要がなくなり、他社でのアプリ開発を促進できると見込む。

 特に重視するのが、複数台のトラッカーの集中管理を必要とする業務用用途だ。充電管理が不要であり、常時着用が可能で着け忘れや着け間違いを防げる点が大きな利点になると見込む。

 同社によれば、医療・介護分野からの関心が高いという。例えば高齢者介護施設では、施設側が利用者の容態の急変に気付けずに対応に遅れが生じて亡くなってしまうケースなどが問題となるものの、特に夜間の検温や見守りは人材不足もあって対応が難しいという大きな課題がある。MOTHER Braceletを利用すれば、タイマー設定で決まった時間に体温や心拍などのデータを読み出し、早期に異常を検知することができる。スタッフが異常を把握し家族に連絡する場合、MOTHER Braceletによる異常検知で直接家族に連絡するシステムを構築すれば、スタッフの負荷は抑えつつ、家族とも連携することが可能となる。

MOTHER Braceletの本体裏面。筐体に窓が開いている部分は心拍センサー。左上の2つの円形の金属部分は充電用端子。体温や太陽光により発電できない“万が一”の場合に備えて充電端子も用意しているという
MOTHER Braceletの本体裏面。筐体に窓が開いている部分は心拍センサー。左上の2つの円形の金属部分は充電用端子。体温や太陽光により発電できない“万が一”の場合に備えて充電端子も用意しているという
[画像のクリックで拡大表示]

 同様に、長距離ドライバーやタクシードライバーなど、従業員の体調管理といった用途も24時間常時着用可能の利点は大きいとする。ドライバーで大きな課題となっている体調不良や飲酒に対しても、体温や心拍といったバイタルデータで傾向を把握し、電話等で確認するなどほかの手段を組み合わせることで、危険回避に活用できると見込む。「BtoCの安価で精度の良いトラッカーは中国メーカー品などが多数出回っている。我々が取り組むべきは、BtoBのトラッカー。医療介護分野や運輸分野など、人のバイタルデータの管理に関する社会課題の解決に貢献できると考えている」(江口氏)。

 BtoB向けの集中管理システムについては、パートナー企業との協力で2022年以降に実用化する予定だ。さらに他社から用途特化型のアプリが登場することを期待しているという。

(タイトル部のImage:加藤 康)