これまでの認知症検査との違いとは?

 Gazefinderを使った視線計測による認知機能検査の最大の特徴を武田氏は次のように言う。

 「例えば代表的な認知症検査の長谷川式認知機能検査は30点満点のテストです。1つひとつが正解もしくは不正解なので、どのパターンで認識したとしても、全体が30点満点でしかない。つまり30ビットの情報ということです。一方、視点検査は、時間は3分弱のテストですが、連続的に視点を追いかけているので、見ている場所、時間、見る順番など、全体を考えると、理論的には100億ビットくらいのパターンとして認識することができます。この大規模なデータをAI・機械学習を用いて解析することでさらに高精度の評価が可能になると期待される。これが今までの認知症検査との一番の違いです」(武田氏)

 現在は認知症の中でもアルツハイマー型認知症を中心に検証を行っているというが、今後はさらに多くの認知症に対応を広げていくことも考えられる(図5)。

 「認知症には少なくとも8種類以上の型があります。それぞれの患者さんの特徴を正確に分析することで、目の前にいらっしゃる被験者がいったいどの型の認知症なのかを知ることもできるはず。現在そうしたアルゴリズムを開発中です」(武田氏)

図5●認知症には様々な型がある(出所:武田氏)

 武田氏は認知症診断の重要性について次のように語る。

 「2017年にTHE LANCETという医学雑誌に掲載されたある論文が今でも印象的に残っています。人生全体を通して考えた場合、いくつもある認知症のリスクファクターに対し、人が介入可能なものがどのくらいあるかということを検証した論文でした。これによると、全体の35%が現実的に介入可能なリスクファクターであるとのこと。つまり正確な診断さえできれば3割以上のリスクファクターを取り除くことができる可能性が生まれるということです」(武田氏)

 ところが既存の認知症検査には拒否反応を示す人も少なくない。また、導き出される診断結果はどうしても大づかみで、かゆい所の全てに届いているとは言い難い。事実、約75%の認知症患者が診断されることなく見逃されているという調査もある。(ADI World Alzheimer Report 2011)

 冒頭に例として紹介した「長谷川式認知機能検査」はこれまで多くの診断実績を残してきた素晴らしい認知症検査の方法である。ただ、「今日の日付」「今いる場所」など、だいの大人に対するには、あまりにも低い段階からの質問からはじめなければならない。これは検査する側とされる側の両者にとって、大変ストレスフルなものであるとも言える。

 対して基本的にモニターを見つめるだけのGazefinderを使った認知機能評価システムであれば、かなりの部分のストレスが解消されるだろう。

 検査に臨む人が増えれば、それだけ診断の手がかりとなる情報の蓄積が増える。これが早期診断、早期発見、そして早期介入へとつながるのだ。

 認知症の新たな地平を示す技術「見るだけの認知機能評価システム」の展開から、今後も目が離せない。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)