充電が不要で24時間の連続着用が可能――。そんなスマートトラッカー(活動量計)が登場した。メディロムが開発した「MOTHER Bracelet(マザー ブレスレット)」だ(前編記事:ついに登場、これが「充電不要」で24時間装着できるウエアラブル)。同社は、リラクゼーションサロン「Re.Ra.Ku」を展開するスタートアップ企業。なぜ、そしてどのように今回の製品開発に至ったのか。その経緯を追った。

充電不要の「MOTHER Bracelet (マザー ブレスレット)」(プロトタイプのため、最終製品とは異なる可能性がある)。同トラッカーは熱電変換による「温度差発電」と太陽光発電による電力で動く(撮影:加藤 康、以下同)
充電不要の「MOTHER Bracelet (マザー ブレスレット)」(プロトタイプのため、最終製品とは異なる可能性がある)。同トラッカーは熱電変換による「温度差発電」と太陽光発電による電力で動く(撮影:加藤 康、以下同)
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特定保健指導アプリで分かった、トラッカーの二大課題

 メディロムがMOTHER Braceletを開発するきっかけとなったのは、同社が展開するオンデマンドトレーニングアプリ「Lav」だという。いわゆるマッチングアプリを参考に、管理栄養士や理学療法士、作業療法士といった専門家から好みのコーチを選び、チャットによる個人指導を受けられるというアプリである。

 長年のリラクゼーションサロン経営の知見から、モチベーションアップには“人”が欠かせない点に着目して開発したものだ。2018年には、同アプリを利用した特定保健指導や体質改善プログラムを事業化している。

 アプリでは、コーチによる指導の精度を高めるべく、歩数や睡眠状態などのデータを活用する。歩数や睡眠はスマホでも計測できるが、精度には限界がある。「特に睡眠に関するデータは重要。代謝に関わるので、コーチングの内容が変わってくる」(メディロム 代表取締役 CEOの江口康二氏)。そこで他社のトラッカーなどにも対応し、API連携させることで活用していた。

メディロム 代表取締役 CEOの江口氏。特定保健指導や体質改善プログラムなどに向けたオンデマンドトレーニングアプリ「Lav」が独自トラッカーの開発につながった
メディロム 代表取締役 CEOの江口氏。特定保健指導や体質改善プログラムなどに向けたオンデマンドトレーニングアプリ「Lav」が独自トラッカーの開発につながった
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 運用していく中で、こうしたトラッカーには利用を中断してしまう脱落要因が大きく二つあることが分かってきたという。一つは、外したことをきっかけに着けなくなってしまうこと。一般的なトラッカーやスマートウォッチでは充電が欠かせないが、充電のために外した後、着け忘れたり面倒になったりしてそのまま脱落してしまうケースがあるという。加えて、充電する間は着用できないのでデータを計測できない。定期的な充電作業自体も手間となり、脱落の要因になり得る。

コロナを受け国内生産に方向転換

 もう一つは、データ取得のためにユーザーがアプリを二重に利用しなければならない点だ。LavではAPI連携により、他社のトラッカーのデータをLavのアプリに自動で読み込む機能を搭載した。ただし、ユーザーはトラッカーのデータを読み出すために、スマホのトラッカー専用アプリを定期的に起動してトラッカーと接続する作業が必要となる。加えて、多様なユーザーに対してトラッカーのアプリとLavとの連携作業を遠隔地からのチャットなどで指示するのは難しく、ユーザーにもスタッフにも負担になりがちだったという。

 そこでメディロムは、「充電不要」と「SDK開放」の二つの条件を満たすトラッカーを自社で開発しようと検討を始めた(前編記事:ついに登場、これが「充電不要」で24時間装着できるウエアラブル)。まずは、熱電変換技術に強みを持ち、スマートウォッチなどの開発も手掛ける米MATRIX Industries社の協力を得ることとした。

 試作機を開発し、2020年1月に米国で開催された世界最大規模のエレクトロニクス展示会「CES 2020」で展示したところ、大いに注目を集めた。特に海外からの反響は予想以上に大きかったという。

 高い期待に応えようと製品の作り込みを検討する一方、同時期に生じた新型コロナ感染症拡大の影響を受けた。当初予定していた中国系企業の工場視察にも渡航できないなど、海外での生産が難しい状況になった。そこで生産委託先を国内に切り替え、日本製として信頼性を高める形へと方向転換を図ることにした。

 実際、MOTHER Braceletの生産は、電子部品の専門商社で製造受託などの支援サービス事業を展開する三栄電子を介して、電子・電気機械器具等の開発・生産・販売を行うキヤノン電子にアウトソーシングしている。そこで設計や製造プロセスの改善などが進められ、品質や信頼性の向上につながったと江口氏は言う。

今後、医療分野での実証を進める

 メディロムは今後、生活習慣データを基にしたデータ解析事業への事業領域拡大も視野に入れる。製品の大量生産体制が整ったことから、医療関連分野に向けた実証実験を進めていく予定だ。これまで共同開発を進めてきた関西医科大学には、2021年末に検証用の機器を提供し、2022年初頭からリハビリなどに関する実証実験の実施を計画する。

 日本でも「Apple Watch」(米Apple社)の心電図アプリケーションや不規則な心拍の通知プログラムが医療機器として認められるなど、ウエアラブルと医療をめぐる状況は変わりつつある。特に、今回の製品は充電不要で24時間着用が可能となるため、期待は大きいと同社は見る。実際、新薬開発や治療方法の検証プロセスの一環として、バイタルデータの取得に活用したいとの引き合いがあるという。

 メディロム MOTHERチーム MOTHER開発責任者の植草義雄氏は次のように語る。「体温にしても、一般に定期的に検温している人は少なく、自分の平熱を把握できていない人は少なくはない。手首で計測するという精度の課題はあるが、ここ最近では手首で計測する機器が一気に増えたことで急激に精度は向上している。加えて24時間計測し続けることで従来は把握しにくかった1日の変動もわかるようになった。いずれ、医学的な知見としても役立つと考えている」。

メディロム MOTHERチーム MOTHER開発責任者の植草氏
メディロム MOTHERチーム MOTHER開発責任者の植草氏
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 同社では引き続き、トラッカー自体の開発も続ける計画だ。次世代機では、機能を絞り込んだ小型タイプと、ヘビーユーザー向けを想定した高機能・大型タイプを用意し、ユーザーの二極化に対応することを予定する。

(タイトル部のImage:加藤 康)