AIを使って不妊治療を戦略的にサポートする──。そんな不妊治療データのAI検索サービス「cocoromi(こころみ)」を手掛けているのがスタートアップのvivolaだ。2020年6月15日、体外受精を検討する夫婦に向けて無料提供を開始した。同サービスはなぜ生まれたのか――。

 cocoromiは、体外受精で妊娠した女性のデータを基にした不妊治療向けの治療検索サービスである。体外受精で妊娠した女性のデータが約1000人分登録されており、採卵や移植の平均回数、治療にかかる期間や費用などの体外受精に関する統計データを閲覧することができる。

 AIを使って、自分と似ている人が体外受精で妊娠に至るまでのデータを検索し、参照することも可能だ。自分と似ている同質性データの抽出には、年齢と妊娠に関係する疾患の有無、発育過程の卵胞から分泌されるホルモンである「AMH(抗ミュラー管ホルモン)」の値を使用する。同年8月には、LINEアプリのオープンチャットを使って不妊に関する情報交換ができる機能も設ける予定だ。

「cocoromi」サービスのイメージ(出所:vivola)

 開発のきっかけは、「不妊治療について客観的な公開データが少なかったから」とvivola 代表取締役CEOの角田夕香里氏は説明する。そのため、今受けている治療が自分の年齢や体質に適しているのか疑問に思っても、客観的に判断するための参照データを見つけることが難しかったのだ。

 そもそも、患者が生殖医療を体系的に理解することは難しく、同社によると、体外受精経験のある300組の夫婦を対象にしたアンケートでは、「治療方法について理解していた」と答えたのは3割にとどまり、残りの7割が「わからないまま治療を受けていた」と答えたという。

「治療方針に偏りのない客観的なデータを集める」

 不妊治療の特徴として、「医療機関によって治療方針が異なる」(角田氏)ことが挙げられる。

 例えば、体外受精では、成熟した卵子を採卵するために卵巣を刺激して卵胞を育てる卵巣刺激を行うが、その方針や方法が医療機関によって異なるようだ。ホルモン剤を多く投与してたくさんの卵胞を育てる方針の医療機関もあれば、ホルモン剤はあまり使わずに自然周期に近づけながら卵胞を育てる方針の医療機関もあり、医療機関によって投与するホルモン剤の量などに大きな差が生じているという。

 受けられる検査も医療機関によって異なる。米国では体外受精をする際には、受精卵の染色体や遺伝子に異常がないかを検査するために着床前診断を行うのが一般的だが、国内では着床前診断を扱っていない医療機関も少なくない。特に地方では住んでいる地域に着床前診断を行える施設がないため、新幹線に乗って都市部の医療機関に通う人もいるほどだという。

 そのため、自分の通っている医療機関以外の情報も踏まえて、治療法を検討したいと考える人は多い。cocoromiを使って、客観的な統計データや自分と同質性のデータを閲覧できれば、治療法選択や医療機関選びに役立てることができるというわけだ。同質性のデータで、今行っている治療とは別の治療で妊娠できた人の割合が高ければ、「早いタイミングで治療を変えたり転院を考えたりといった行動に移すことができる」と角田氏は説明する。

vivola 代表取締役CEOの角田夕香里氏(写真:オンライン取材画面のキャプチャー)

 妊娠に至ったデータとしてcocoromiに登録されているのは、同氏がSNS上で運営するコミュニティーに登録している体外受精を経験した女性のデータを中心としており、特定の医療機関から収集したわけではない。「治療方針に偏りのない客観的なデータを集めることを重視した」と同氏は話す。

「通院までの心理的ハードルをなくしたい」

 ユーザーからは、「これまではネット検索で個別に情報を収集するしかなかったが、統計データで自分の立ち位置が客観的に分かって嬉しい」「新しい選択肢を知ることができた」などの声が届いているという。これから体外受精を始めようとしている夫婦は、「治療期間や費用の目途が分かって、心構えができた」という。

 30代後半になってから妊娠を考え始める女性の中には、体外受精から不妊治療を始めようと考えている人も多いようで、「統計データを見て早めに受診しようと思った」という感想も届いた。「通院までの心理的ハードルをなくしたいという思いが実現できた」と角田氏は胸をなでおろす。

 著名人の高齢出産がメディアで取り上げられることも多いが、それはほんの一握りの人の例で、涙をのんで妊娠を諦めている人も多いという。その上で、今後、妊娠や出産を検討する若い世代の人たちに「新しい選択肢を残せる世の中にしたい」と角田氏は意気込む。

福利厚生に「卵子凍結」を導入する企業も

 キャリア設計と出産のタイミングについて、より多くの選択肢を残すためには、妊娠に関係する疾患にかかっているのか、自身の月経は排卵を伴っているのかなど、まずは自分の状態を知っておくことが重要だという。女性ホルモンの値をライフログとして取得できれば、そうした把握もしやすいようだ。

 ただし現在は、仕事の両立が難しく、不妊治療を理由に会社を辞める人が少なくないのが現状だ。そこで、vivolaでは今後、不妊治療を支援するための企業向けサービスも展開する予定だという。

 米国では既にUberやFacebookなどの企業が福利厚生プログラムに卵子凍結費用の支援を導入しており、若い女性が出産の選択肢を残しながらキャリアを描けるようなサポート体制をとっている。cocoromiのような不妊治療を支援するサービスが増えれば、不妊治療を個人の問題と捉えずに、企業をはじめとした社会全体で解決しようとする機運が高まりそうだ。

(タイトル部のImage:出所はvivola)