鮮烈な色使いや筆使いの絵柄が配された、ネクタイやスカーフやバッグ。その絵柄が、福祉施設にいる知的障害のある人が描いたアート作品だと聞いたら、皆さんはどう感じるだろうか。岩手県花巻市と東京都に拠点を置くヘラルボニーは、こうしたアート作品をプロデュースしているスタートアップ企業だ。

 ヘラルボニーは2018年7月に創業し、約2年が経過した。2020年11月には盛岡市内に本社兼ギャラリーを開設、さらには地元の百貨店「パルクアベニュー・カワトク」内に直営ショップをオープンさせる予定だ。今後は事業を拡大するためのパートナー企業を増やし、投資も受け入れ、本格的に成長軌道に乗せる意向という。

ヘラルボニーが商品化したネクタイ。絵柄には知的障害のあるアーティストが描いたアート作品を使っている(出所:ヘラルボニー)

 産業界でSDGs(持続的な開発目標)が盛んに取り上げられる中でも、ビジネスと福祉という相反しがちな領域を結びつけているヘラルボニーのアプローチは、極めてユニークだ。近年、注目を浴びる「ウェルビーイング」の概念にも通じるものがある。

 「知的障害への見方を、ビジネスを通じて変容させる」と語るヘラルボニーの代表取締役社長である松田崇弥氏に、創業に至った思いと、事業への展望を聞いた。

ヘラルボニー創業者CEOの松田崇弥氏。同氏が着用している「リバーシブルアートマスク」にはアーティスト・坂本大知氏の作品「ギザギザ」が配されている。本商品はクラウドファンディングサイト「READYFOR」で販売した。募集開始から日を待たずに第1目標金額である100万円を達成し、第2目標を300万円に設定して募集、締切日の7月26日に合計322万8600円を集めて終了した(写真:ULYSSES AOKI)

そのマスクの絵柄、素敵ですね。

松田氏(以下、敬称略) 新型コロナウイルスの流行を踏まえて作った「アートマスク」です。マスクのラインナップは複数ありますが、こちらに配した元のアートは「ギザギザ」というものでして、知的障害があるアーティストの坂本大知さんの手による作品です。この7月に、大日本印刷労働組合などDNPグループ労連に加盟する労働組合様が2450枚をご購入しました。

 知的障害がある人のアート作品には、繰り返し削る、繰り返し同じ模様を描く、といった、繰り返しのパターンがよく見られます。この特徴は、アパレルプロダクトには特にマッチします。

ヘラルボニーが言語・福祉の専門家やクリエイティブディレクターらと共同で開発した「未来言語」というワークショップの様子。マスクやヘッドホンなどで見えない、聞こえない、話せないという状況下で、他者とコミュニケーションを取ってもらおうというもの。主に企業での研修を想定した内容で、障害者雇用促進法を踏まえた健常者と障害者の相互理解の促進、あるいは部署内のチームビルディングが狙える内容として開発した(出所:ヘラルボニー)
大日本印刷労働組合などDNPグループ労連に加盟する労働組合は2020年7月、ヘラルボニーのリバーシブルアートマスクを2450枚購入し、組合員に配布すると発表した。同組合とヘラルボニーの縁は、同組合が上記の「未来言語」を導入・実施したのがきっかけという。導入プロジェクトを企画した大日本印刷労働組合職場対策推進部長の長山泰祐氏(左)は「労働組合としても社会貢献活動は重要テーマの1つ。その有効な取り組みとしてアートマスクの導入を考えた」と話す。また同組合執行委員長の別府直之氏(右)は「組合員が新しい時代性への理解を深め、自らのアイデンティティを向上させるという側面で捉えた場合にも、知的障害がおありの方々が関わっているアートマスクの導入はインパクトがあると認識している」とその意義を語る(写真:ULYSSES AOKI)

 自閉症やダウン症の人々は、習慣化して物事を覚えるという特性があるそうなのです。実際、彼らはルーティンが生活の基盤として存在していて、靴を寸分たりともずらさないとか、この時間になったら必ずこれをする、といった強固なルールが存在するのですが、このルーティンの特性がアート作品にも現れていて、独特の表現です。これを見て、私は知的障害があるからこそ描ける世界があるのだと確信しました。