周囲からは「かわいそう」、でも本人は楽しそう

起業の発端は、ご家族に知的障害のある方がいらっしゃったことだとお聞きしています。

松田 はい。4歳上の兄に知的障害があります。親戚や知人からは「大変だよね」とか「お兄さんの分もしっかり生きてね」などと同情されたりすることが多かったのですが、私から見ると、兄本人はいたって楽しく生きているように見えるんです。

 つまり、「かわいそう」といったような周囲の見方と、家族内での認識の間には、大きなギャップがある。幼少の頃から感じていたこの違和感が、事業活動のそもそもの起点にあります。

「松田三兄弟」の集合写真。中央が松田社長の4歳上の兄・翔太氏。左はヘラルボニーの文登副社長(出所:ヘラルボニー)
「松田三兄弟」の集合写真。中央が松田社長の4歳上の兄・翔太氏。左はヘラルボニーの文登副社長(出所:ヘラルボニー)
[画像のクリックで別ページへ]

 実際の起業に至ったきっかけは、知的障害がある人によるアート作品に触れたことでした。私は大学を卒業後、広告企画会社で働いていました。岩手の実家に帰省した際に、親に「るんびにい美術館」(筆者注:社会福祉法人光林会が運営する施設。岩手県花巻市にある)のことを聞かされました。2階がアトリエ、1階が美術館という福祉施設でして、早速親と一緒に行ったんです。そこに展示されている作品を見て衝撃を受けまして、「このようなすごい世界があるのか」と思ったんです。

 そこで双子の兄(松田文登氏:ヘラルボニー副社長)や仲間とともに、副業でアパレルブランド「MUKU」を立ち上げ、知的障害がある人のアートを絵柄に使ったネクタイを作って販売し始めました。最初の2年間は副業で続けまして、2018年に会社として設立しました。

ヘラルボニーという社名は、知的障害のあるお兄様によるものだそうですね。

松田 4歳上の兄が自由帳に繰り返し書いていた「謎の言葉」を社名にしました。私が大学生の時にこれを見つけて、兄に「これどういう意味?」と聞いたのですが、「わからない」と答えました。けれども兄本人としては、語感か何かが面白いと感じたから繰り返し書いたのだと思います。

 兄たちの世界観の中には何かがある。私たちはそれをたまたま言語化できていないだけ。ならば、それを翻訳して伝えられる会社になりたい。そう思って、これを社名としました。