東京五輪のプレイベントとして行われた「オリンピック・バーチャルシリーズ*1」(2021年5月13日~6月23日)など、昨今eスポーツの認知度は高まる一方だ。そんななか、秋田県で65歳以上限定のeスポーツチームが誕生する。その名も「マタギスナイパーズ」。将来的にはプロを目指し、現在は週に一度のトレーニングに汗を流す。その取り組みを取材した。

*1 野球、自転車競技、ボート競技、セーリング、モータースポーツの5つの分野で競い合う世界のゲーマーを巻き込んだ eスポーツイベント。

トレーニングを行う「マタギスナイパーズ」(写真提供:エスツー、以下同)
トレーニングを行う「マタギスナイパーズ」(写真提供:エスツー、以下同)
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 7月某日、秋田県秋田市にある秋田県eスポーツ連合トレーニングセンターに集結した男女10人。平均年齢は68歳だ。彼らの目的はひとつ。eスポーツの腕を磨くことだ。

 参加者のひとり、69歳の男性HOKhodono さんは「もともとeスポーツに興味があったことに加え、秋田を盛り上げたいという理念に賛同して参加を決めた」と語る。

 主催するのは秋田市内に本社を構えるIT企業、エスツーだ。同社総務部長の緒方無双氏に聞いた。

エスツー総務部長の緒方無双氏
エスツー総務部長の緒方無双氏
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 「弊社はサーバーの運営やシステム構築などITのインフラを扱う会社です。2018年にある企業のeスポーツ関連のプラットホームを作るお手伝いをしたことから、eスポーツというものを研究するようになりました」(緒方氏)

 また、eスポーツへの取り組みについては社内環境も大きく影響したという。

 「私は今年53歳で、社内では3番目に高齢ですが(笑)、会社全体の平均年齢は30歳を少し上回ったくらいです。そういう年代は『飲み会をやるぞ』と声かけするより『ゲームイベントをやるぞ』って誘ったほうが参加率が高いんです」(緒方氏)

支社同士でオンラインゲーム

 秋田市に本社のあるエスツーだが、仙台市と東京にも支社を持つ。事業所同士をオンラインで結び、ゲームで交流を深めるなどといったイベントも盛んだ。

 「世代的に見て社員に馴染みやすいということもあり、eスポーツを使った取り組みについての模索を始めたのです」(緒方氏)

 ただ、秋田県内にeスポーツを根付かせる条件は乏しかった。そもそもeスポーツのなんたるかを語ることができる人材も少ない。しかし、社内だけで完結させたのでは大きく盛り上げることはできない。

 長く継続的なムーブメントとして進めていくには広い裾野が不可欠だ。緒方さんたち首脳部はそう考えた。

 行き着いたのが「地域の負のイメージを覆す戦略」だった。

 「地方都市はどこもそうだと思うのですが、秋田も少子高齢化の問題が深刻です。これを逆手にとって、高齢者とeスポーツを結びつけることを考えた。また、秋田の文化としては、山に深く分け入って狩りをするマタギの文化が有名です。これとeスポーツのシューティングゲームをつなげ、65歳以上限定の『マタギスナイパーズ』の結成を企画したわけです」(緒方氏)

65歳以上にインパクトあり

 2021年6月、秋田県のマタギ文化と高齢化問題、このふたつをeスポーツで接着したマタギスナイパーズの募集が始まった。

 参加の条件は秋田県在住で65歳であることに加え、週に1回、3時間程度の練習に参加できること。参加料は無料だ。

 「予想を超えた反響でした。多くの問い合わせをうけ、現在は18人が正式に参加を表明してくれました。週に1度のトレーニングには日によってばらつきはあるものの、毎回10人以上の選手が参加してくれています」(緒方氏)

 高齢者とeスポーツを並べると、すぐに「認知症予防」や「健康のための趣味」といったフレーズが思い浮かぶが、「マタギスナイパーズ」の目標はそこに終始することはない。エスツー代表の須藤晃平氏は「孫にも一目置かれる存在を目指すことで、世代横断型の地域コミュニティの育成につなげたい」とぶち上げた。

 さらに、前出の緒方氏は「マタギスナイパーズが目指すのはeスポーツのプロプレイヤーです」と語る。

 「大会に出場して賞金を狙うというだけでなく、動画配信プラットフォームなどで自身のプレイ動画を配信して収入を得るいわゆるストリーマーなどもお金を稼ぐという意味ではプロです。そのようなところまでを視野に入れて3~4年後を目処にプロ化を目指しています」(緒方氏)

 7月最終火曜日には11人のプロのタマゴたちが集まった。みなさん数カ月前までは未経験者だった方々だ。

 現在取り組んでいるのはフォートナイトというオンラインゲームだ。ゲーム上に設定された島に降り立ち、戦いながらサバイバルを目指すという内容だ。ひとりで楽しむこともできるし、4人までのチームを編成して参加することもできる。

ゲームの仕組みを説明するレモンさん(右)
ゲームの仕組みを説明するレモンさん(右)
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 トレーナーのレモンさんは次のように語る。

 「初日は『フォートナイトとはどういうゲームなのか』という講習からはじめました。皆さん初心者なんですけど、驚くほど飲み込みは早い。こちらの予想を上回る上達ぶりです」

参加者のひとり、EBAちゃん
参加者のひとり、EBAちゃん
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 参加者のひとり、EBAちゃん(68歳女性)は「年齢が年齢なので、集中力、持続力、反射神経を鍛えるのにいい。いつまでも若々しくいたい私の目標にピッタリ。お家で自主練するんですけど、うまくいったときの満足感は最高です」と笑顔をはじけさせた。

eスポーツ効果の研究

 秋田県のネガティブなイメージを逆手にとって結成されたマタギスナイパーズ。地域にeスポーツの裾野を広げていこうとの試みだが、「将来的にはeスポーツが心身に与える影響などについての研究にも役立てたい」と緒方氏は語る。

 「今の65歳は『老人』というイメージはありません。まだまだ現役という印象です。ただ、心身の衰えが目立ち始める年齢でもあります。参加してくれている方々の合意を得た上で、定期的に心身の健康診断などを行いたいと考えています。こうしたログを蓄積しておけば、eスポーツを続けることが高齢者に対してどのような影響を与えるのか、といった研究につなげられるかもしれません」(緒方氏)

 とはいえ、目指すは健康増進ではなく、あくまでもプロゲーマーだ。

 「マタギスナイパーズ以外も、世界にはいくつか高齢者だけのeスポーツチームがあります。スウェーデンの『シルバースナイパーズ』などが有名です。実力をつけて、彼らとの交流戦などを行うことができるところまで上達できれば素晴らしいですね」(緒方氏)

 前出のEBAちゃんは次のように語る。

 「募集の理由が『認知症防止』だったら参加していなかったかもしれません。地域の発展とプロ化集団の養成だったからこそ参加したんです」

 すべてのスポーツに言えることだが、ある程度本気にならなければ本当の楽しさを味わうことはできない。学生時代、部活動で苦しい練習を続けられたのは「勝ちたいから」だった。だからこそ楽しかった。あれが「健康のため」だったら3日と持たなかったはずだ。

 「我々はあくまでもプロを目指します」

 そう宣言するマタギスナイパーズからは、あのころにかいた汗の匂いがする。

 「本気で取り組むと、ボケてる暇がない」

 参加者の皆さんはこう口を揃える。鍛錬し、強くなってプロとして活躍する。健康、認知症予防効果なんかは副産物。趣味や仕事が多様化する時代だからこそ、このような視点が今後の高齢者問題を解くキーワードとなるだろう。

(タイトル部のImage:出所はエスツー)