ASD児には腹痛、便秘などの消化器症状がある

 実は、ASD児には、行動やコミュニケーションの障害という中核症状とは別に、腹痛、便秘、下痢、嘔吐、腹部膨満といった消化器症状が併存しやすい。その不快感が入眠困難や頻回の中途覚醒といった睡眠の問題や、かんしゃく、自傷行為の悪化の要因となりうると考えられている。

 「慢性的な便秘などの消化器症状が易刺激性を悪化させるのなら、腸内細菌叢を健全な状態に変えることによって、ASD児のイライラ症状を改善できるのでは、と考えた」(井上氏)。

 こうして、「消化器症状」に着目し、「食」で腸内細菌叢の状態を改善することで、ASD児の易刺激性という「医」の問題を解決する研究が始まった。

無味無臭の水溶性食物繊維が突破口に

 腸内細菌叢を変えるための介入試験の候補となった素材が「水溶性食物繊維」だ。水溶性食物繊維は、腸内細菌のエサになり、それによって腸内細菌の数が増えるなどして腸内細菌叢を健全な状態に保つ作用があることが近年活発に研究され、“腸活素材”として話題になっている。

 大麦やワカメ・昆布などの海藻、納豆、果物やゴボウなどの食品に多く含まれるため、こうした素材を食事に加えてとらせるのがいい。だが、ここで立ちはだかるのが、大多数のASD児にある偏食だ。

 ASDの子どもは、限られた種類のものしか口にしない場合が多い。特定の食感や色の食べ物を嫌がったり、決まった皿でしか食べなかったりなど食事の仕方に強いこだわりを示す子どもも。「特に、白いご飯にこだわる子が多く、肉も薄くないとかみ切れず、吐き出したり、みそ汁の上澄みだけを飲んだりという子など、とにかく変化を嫌う」(阪上氏)。

 食への強いこだわりをクリアし、食品の味や形状を変えずに水溶性食物繊維を増やす方法として使われたのが、無味無臭、水に溶けやすいパウダー状の水溶性食物繊維(グアー豆由来)だった(図3)。「保護者の方には、ごはんに混ぜて炊いても、飲み物やみそ汁に入れてもいい、というふうにお願いした」(阪上氏)。

図3●試験に使用した、無味無臭のパウダー(写真:スタジオキャスパー)