2017年から国土交通省が実施している「サステナブル建築物等先導事業(次世代住宅型)採択プロジェクト」。これは、住宅や住生活の質の向上や、新たなビジネス市場の創出・拡大を、IoT技術を活用して実現しようとする試みだ。これまでに6回の募集が行われ、計11プロジェクトが採択された。ここでは、採択事例のうち、「高齢者・障がい者等の自立支援」や「健康管理の支援」などヘルスケア分野をテーマにしたプロジェクトを紹介する。今回紹介するのは、17年度の第1回および19年度の第2回の公募で採択を受けた、芙蓉ディベロップメントの「健康寿命延伸住宅」だ(前回の記事はこちら)。

 芙蓉ディベロップメント(福岡市)の「健康寿命延伸住宅」は17年度の第1回の採択事例として実施した後、技術のブラッシュアップに加え、新しい試みを盛り込んだ提案が19年度の第2回の公募でも採択を受けた。2度の採択という、これまでに例のない評価を受けたプロジェクトについて解説する。

 健康寿命延伸住宅では各種IoT機器を利用して、住まい手一人ひとりの「バイタルデータ」を計測して記録する。

 バイタルデータとは、脈拍、血圧、体温など、人体から取得できる生体情報のこと。この事業では、血圧(上・下)、体温、脈拍、自覚症状の5つのバイタルデータを収集している。このうち脈拍はウェアラブル機器を用いて計測するため、住まい手が機器を身に付けている限り自動的にデータを記録する。その他のデータは、日々規則的に住まい手が計測し記録する。

 こうして記録したバイタルデータを基に、芙蓉ディベロップメント独自のAIが分析を行い、住まい手の健康状態を判断する。

 分析結果に合わせて自動的にエアコンをコントロールするほか、バイタル異常値(健康状態の悪化)が現れた場合には、住まい手本人への警告はもちろん、離れた所に住む家族へもインターネットを介して通知する。また正常値に戻った場合も、同様に通知する。

 健康状態の異常を早期に発見することで、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)を長くすることを目的としている。

芙蓉ディベロップメントの健康寿命延伸住宅を現わすイメージ。(1)温熱環境のコントロール(2)健康管理(3)見守り機能(4)高気密・高断熱といった機能が備わっている(出所:芙蓉ディベロップメント)

 健康状態はどのように判断しているのか。

 健康状態を示すバイタルデータは、性別や年齢、生活環境など個々人で異なる。例えば、平熱が35.5度の高齢者が36.5度の体温を記録した場合、これを異常値と見なすのか──。それを判断するには、医療知識に裏付けされた分析が必要だ。

 このバイタルデータを分析するAI技術が最大の特長となっている。

 同社はグループ企業に医療法人を抱えており、介護施設の運営も行っている。健康寿命延伸住宅で用いられているバイタルデータの分析技術は、こうした医療・介護施設において活用してきたシステムを転用し、個人住宅用にカスタマイズしたものだ。

 簡単な操作で日常的なバイタルデータを記録し、そのデータから平均値である「基準値」と、個人によって異なる基準値からの変動幅「基準域」を算出。この基準域から外れた数値をバイタル異常値として検出する。

 個人ごとに異なる基準域を、複数の取得データから総合的に判断するために、芙蓉グループの介護の現場で活用されてきたノウハウを生かしている。

2017年度の事業で用いられたバイタルデータの記録ソフトのイメージ。医療の現場で用いられてきたソフトがベースになっているため、画面の表示方法や異常の検出頻度など、住まい手のニーズにマッチしない側面もあった(出所:芙蓉ディベロップメント)

 しかし、医療・介護の分野で活用されてきた技術を個人住宅に転用したことで問題も生じていた。17年度の最初の採択の後に実施・検証された住宅では、異常値検知による警告が想定以上に発現した。

 初期の事業では血圧や脈拍など、記録したバイタルデータが個別に基準値と基準域を設定しており、異常値の検知も個別に行っていた。そのため、「今日は血圧だけが通常よりも高いが、ほかは正常値で自覚症状にも乏しい」というような場合にも異常として警告する結果が出ていた。

 細かな予兆も見逃すべきではない医療機関では有効な技術でも、日常生活を送る住宅においては警戒が行き過ぎ、住民に負担を生じさせる可能性があったというわけだ。

 19年度の2度目の採択事業ではこれを改め、分析方法を更に進化させた「AIバイタルスコアリング法」を用いて対策する。AIバイタルスコアリング法では、血圧(上・下)、体温、脈拍、自覚症状の5つのバイタルデータを医学的見地に基づいて総合的に評価。異常値の発生も総合的な判断から行われる。