コンピュータゲーム上での対戦競技「eスポーツ」。海外ではプロeスポーツプレーヤーの活躍ぶりが注目を集めている。ここ日本でもNTT東日本グループなどの大手企業がeスポーツ分野に参入し、にわかに活況を呈してきた。オランダの調査会社Newzooは2020年のeスポーツの世界市場は10億5930万米ドル(約1130億円)と予測しており、期待度の高さが伺える。そんな中、病気や障害を持つ人のeスポーツへの参加を支援し、日本に広げようという団体が、2020年4月に設立された。一般社団法人ユニバーサルeスポーツネットワーク(ユニーズ)だ。

左から一般社団法人ユニバーサルeスポーツネットワーク(ユニーズ)代表理事の田中栄一氏、専務理事の久保秀一氏、理事兼事務局長の大海恵聖氏(写真提供:ユニバーサルeスポーツネットワーク)

 ユニーズの代表理事は田中栄一氏。国立病院機構北海道医療センター(札幌市)に作業療法士として勤務している。1990年代からコンピュータゲームをリハビリに取り入れてきた。

 田中氏がゲームに関わるようになったきっかけは、国立病院機構八雲病院での勤務経験。同病院は小児期発症の神経筋疾患を専門とした北海道随一の病院だった(筆者注:八雲病院は老朽化のためこの8月末に閉院となり、その機能と患者は今夏から順次、北海道医療センターと国立病院機構函館病院(函館市)に引き継がれている)。

 ゲームをプレーしたいと望む若い患者たちの要望に応じて、田中氏ら支援スタッフは、様々な工夫を凝らしてきた。筋ジストロフィーなど神経筋疾患系の病気は、時の経過とともに筋力が徐々に落ちていく。そこで、筋力を補ったり、代替手段を用意したりすることが主軸となる。例えば、ゲーム機のコントローラーを改造し、指の小さな力で操作できるようにする。あるいは、キーボードやマウスの代わりに視線入力や音声入力を使う。コントローラーに外付けする自助具や、マイコンや3Dプリンターを駆使してデバイスを自作することもある。

 「患者さんは身体を大きく動かすことは困難。そんな患者さんたちにとって、コンピュータゲームの世界は非常にマッチする」と田中氏は語る。

 神経難病の患者は病気の性質上、病院内に引きこもりがちになる傾向があるという。しかし、ゲームができるようになった患者たちには一転、「外の世界」への扉が開かれる。患者たちは、熟達、探索、協働といった要素を持つゲームのプレーを通じて、自らの可能性を見いだせる。そのうえ、ゲームという共通の土台を通じて、病院内外のプレーヤーたちとコミュニケーションが取れるようになる。

 田中氏は「ゲームをプレーし、健常者とオンライン上で対戦までこなすような患者たちと一緒にいると、本当に学ぶことが多い。そして彼らが自らの可能性を見いだしていく姿を見ていると、本当にうれしい気持ちになる」と語る。

 「僕はゲームに救われた」と語るのは、吉成健太朗氏。生まれつき脊髄性筋萎縮症(SMA)を持ち、八雲病院で治療を受け続けてきた吉成氏は、田中氏とは10年以上の付き合いになるという。吉成氏は田中氏らスタッフの協力を得つつ、ゲームとeスポーツを楽しむ。また、自ら試してきたゲームをプレー可能にするための情報やノウハウを、自身のWebサイト「AGLGamers(アグルゲーマーズ、https://aglgamers.com/)」やメディアなどを通じて発信し続けている。なお、患者有志によるプロジェクト「ゲームやろうぜProject」(https://www.gyp55.com/)のWebサイトにも情報やノウハウが載せられている。

 吉成氏はゲームおよびeスポーツに対して、どのような思いを持っているのか。まずは彼の話を聞いてみよう。

「できる可能性が広がった」 吉成健太朗氏

ユニーズの田中氏いわく、「病院内で最もゲームが上手い」という吉成氏は24歳(取材時)。東京都と北海道北見市に拠点を置く企業・テレワークマネジメントに社員として所属しており、テレワークで業務に従事。障害者のテレワーク雇用を進めたい企業への導入支援などを手掛けている。

 「純粋にゲームが好きなんです」と開口一番に語る吉成氏は、eスポーツの大会で受賞経験がある岡山県共生高校のeスポーツチームとも対戦したことがある。「ゲームに救われた」と強調する同氏に、ゲームおよびeスポーツの意味と可能性を聞いた。

筆者によるリモートインタビューに対応する吉成氏(写真提供:田中氏)

吉成さんにとって、ゲームおよびeスポーツはどのような意味がある活動対象なのでしょうか。

吉成 サッカーや野球などのスポーツは、私たちにはできません。けれどもコンピュータゲームは、私たちにもできる。

 病気や障害を持っていると、何かと「私にはできない」と諦めがちです。しかも私が持っているような病気の場合は次第に身体が動きにくくなり、できることが減り、できなくなることが増えていきますから、ますます諦めがちになります。

 しかし、ゲームの世界では違います。努力を重ねることで熟達し、できることが増えるからです。また、ゲーム上で他のプレーヤーとコミュニケーションをしたり、仲間同士でチームを組んで課題を乗り越えていくという体験もできます。つまり、病気や障害があったとしても、ゲームやeスポーツは工夫次第でプレーできるようになります。これは私たちにとって、非常に大きい、意味があることです。

今後のご活動の展望や目標はありますか。

吉成 何よりも、(病気や障害を持っていても)「できる」ということを広く知らせていきたいですね。eスポーツ自体は一般にも認知が広がってきましたが、病気や障害を持つ人もプレーしているということは知られていません。

 おそらく、潜在的にはゲームひいてはeスポーツをしたいけれどもどうして良いのかわからない、あるいは、その意欲を最初から心の奥にしまい込んでしまっている人は多くいらっしゃるはずです。そこで、障害者がゲームやeスポーツをプレーする際にどんなことが必要となるのか、情報を届けていきたいと考えています。

好きなゲームのタイトルと、その魅力について教えてください。

吉成 特に好きなのは「League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)」ですね。これはチームでプレーするところがポイントです(筆者注:リーグ・オブ・レジェンドは米ライアットゲームズが開発・提供しているオンライン対戦ゲームで、世界で1億人以上がプレーしているとされる。複数のプレーヤーが2つのチームに分かれて対戦し、相手チームの拠点を制圧する。その競技性の高さから、eスポーツ大会のゲームタイトルとして採用されることも多い)。

 プレーヤーは、チームの中で個別の役割を担いながらゲームを進めていきます。役割をしっかり果たし、協力し合うことで相手に勝てる。そして評価を受けられる。これは私たちにとって、非常に大きな体験なんです。

まずは「触れる機会を増やす」

 ユニーズがまず、力点を置くミッションは、まさに吉成氏が言う「できる」という事実を知らせていくこと。病気や障害を持つ人たちを主な対象としたゲームやeスポーツ体験会を開催し、プレーに関する情報共有を進めていく。今夏、ユニーズの協力で八雲病院の患者と札幌市の就労支援施設「継続支援トラビズ」に通う障害者とのeスポーツの親善試合を開催済み。また、同じく札幌市の「就労支援施設ユニ・ノーマ」でもeスポーツの体験会を実施した。

八雲病院の患者と札幌市の就労支援施設「継続支援トラビズ」に通う障がい者とのeスポーツの親善試合の様子。©SEGA(写真提供:ユニバーサルeスポーツネットワーク)
「就労支援施設ユニ・ノーマ」におけるeスポーツの体験会の様子。この体験会で採用したゲームのタイトルは「ストリートファイターV チャンピオンエディション」。©CAPCOM U.S.A., INC. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.(写真提供:ユニバーサルeスポーツネットワーク)

 病気や障害を持つ人、特に手が動かしにくい場合、本人は「素早く、複雑な動きを要するeスポーツで採用されるようなゲームタイトルはプレーできない」と諦めがちだという。しかし、これも各種のサポートによってプレーできるようになる可能性がある。「まずは体験会を通じて、できるという可能性について知っていただく」(田中氏)。

 家族を巻き込んだ体験会も企画していくという。周囲にいる家族やサポーターの理解や支援があれば、本人もeスポーツに取り組みやすくなるためだ。田中氏は「患者や障害を持つ当事者がゲームやeスポーツを通じて一度でも『自分にもできる』という体験を積めば、生活や人生に対する姿勢や考え方が大きく変わる。この変化は、支援する家族にも大きな希望になる」と語る。

 同時に、広くeスポーツ全般に対する知識の啓発も進めていく。ゲームおよびeスポーツのイベントや大会を開く場合、通例、ゲームメーカーへの確認と許諾を得る必要がある。それを知らずにイベントや大会を企画し気軽に宣伝しようとするケースも見受けられるという。ユニーズ専務理事の久保秀一氏は「こうしたガイドラインの順守は、プレーヤーが安心して参加するうえでとても重要だ」と強調する。

 ユニーズ理事兼事務局長の大海恵聖氏は「福祉分野はなにかと優遇される傾向があり、ごく小さなミスと言えるものであれば見逃される向きもある。だがそのままではeスポーツの普及を阻害しかねない。eスポーツとそれに対する正しい知識を普及させたい」と語る。「eスポーツの裾野が広がれば、障害を持つ人が参画する『ユニバーサルeスポーツ』の間口も確実に広がる」と話す。

プレー環境の構築ノウハウを蓄積・共有

 加えて、病気や障害を持つプレーヤーの技術的な課題に対応するために、ユニーズで課題解決のノウハウを収集・蓄積し、それを当事者やサポーターたちに共有することも進めていく。

 強みの一つは、過去、田中氏らが八雲病院の患者たちとともに蓄積してきたノウハウだ。身体的な制限がある場合、その状態に応じてゲームの操作方法を変える必要がある。田中氏ら八雲病院のスタッフは、小さい力でも反応するスティックやボタンを開発し用意してきた。患者の特性に合わせて自助具、あるいはマイコンを組み込んだデバイスそのものも開発する。口による操作や視線入力などを適用する場合もある。

吉成氏のプレー環境。黒いコントローラーのボディは3Dプリンターを活用して作った。また小さい力でも動かせるようにわずかな力で接点をオン・オフできるマイクロスイッチを使用。アナログスティックについては市販のコントローラーを活用しつつ、柔らかい操作感になるよう工夫したという(写真提供:吉成氏)

 プレーヤーのゲーム中の姿勢も見逃せないポイントだ。集中してプレーを続けていると不自然な姿勢で体を固定させる格好になる。これが体力の無用な消耗を招いたり、身体に負担を強いたりするため、状態を悪くするおそれもあるという。田中氏は「実際にプレーの様子を見れば、負担を回避できる工夫点についてアドバイスできる」。この工夫点はゲームのプレーだけでなく、テレワーク環境のセッティングにも応用可能だという。「仕事の生産性が上がるため、メリットは大きい」(田中氏)。

 精神障害など他のタイプの困難さを抱えている人が参加する場合も、その内容に応じた配慮が欠かせない。例えば感覚過敏や、環境の変化に敏感な人が参加する場合は、ゲーム自体には慣れや親しみがあっても、その場に見慣れぬ人がいる、あるいはいつもと手順が異なるといった要因から、不安感が増すケースがあるという。

 この場合の対策としては、体験会の進行に工夫をし、例えば段取りや手順をはっきりさせること、空間に適宜仕切りを設けること、オンラインでの参加枠を設けることなどが考えられるという。「介護職員の方々やご家族にヒアリングして最適な方法を探り、協力しながら、できるだけ多くの方々に『できる』という体験の機会をつくっていきたい」(田中氏)。

先行する海外、日本はスタートラインにも至らず

 世界的な潮流としては、ゲームについてもコンピュータソフト一般と同じように、アクセシビリティ対応(年齢や障害の有無に関係なく利用可能にすること)が進む流れにある。

 英国にはSpecialEffect(スペシャル・エフェクト、https://www.specialeffect.org.uk/)という慈善団体がある。作業療法士が常駐しており、病気や障害を持つ人が健常者と同じようにプレーできるよう、個別対応しているという。

 米国では2010年にバラク・オバマ大統領(当時)がCVAA法(21世紀の通信と映像アクセシビリティ法)に署名している。ネットで配信されるコンテンツなど、今世紀に入ってから普及した新しいテクノロジーサービスやデバイスについて、アクセシティビティの確保や配慮を義務付けた法律だ。コンピュータゲームについては猶予期間を経て2019年から対象になった。

 こうしたアクセシティビティ重視の動きを受け、近年、専用ゲーム機や一部のゲームタイトルについてはソフトウエア側の機能として、ボタンのマッピング機能が実装されるようになった。指の力の個人差などに応じて、ボタンの機能の割り当てを変えることができる。

 ハード面での対応も徐々に進みつつある。2018年には米マイクロソフトがゲームのアクセシビリティを高めるための機器「Xbox Adaptive Controller」を販売開始した。

 一方、日本国内におけるゲーム業界の対応状況を見てみると、まだ足踏み状態のようだ。田中氏は「現場で患者に対応してきた感触から言えば、スタートラインにも立てていない状態」と指摘する。

 障害を持つ人がeスポーツの競技に参加する場合の課題は少なくない。例えばゲームの操作システムにまつわる規定だ。現状、eスポーツの大会では「ハードウエアメーカーが提供する純正のコントローラーを使う」「大会の主催者が指定するコントローラーを使う」といったルールが決められていることが通例だ。競技としての公平性を確保するためのことだが、これは身体的な制限を持つプレーヤーが選手として参加しようとした場合、障壁にもなり得る。

 eスポーツ関係者の間では、パラリンピックのように大会を分けるというアイデアも出ているという。だが田中氏はコンピュータゲームの特性を生かした柔軟な在り方を探るべきと話す。「手先さえ動かせればプレーできるし、健常者と障害者でチームを組んで参戦もできるというのがコンピュータゲームの良さ。大会でコントローラーのカスタマイズが可能な部門を設けるという方策もあり得る。障害者を区別するのが良いかどうかについては、議論が必要だ」(田中氏)。

 ユニーズ専務理事の久保氏は、「だからこそ、今は草の根の活動が大切。障害を持ちながらもeスポーツに積極的に参加する人が増えれば、eスポーツ関係者の間でも問題意識が高まるはず」と展望する。

ノウハウは他の領域でも生きる

 ユニーズが取り組むゲームおよびeスポーツの「ユニバーサル対応」は、どんなインパクトを与えるだろうか。田中氏は「近年、障害者雇用に注目が集まっている。障害者の働く環境の改善に応用できそうだ」と見通しを語る。先に触れたゲーム中の姿勢の改善、ユーザーインターフェースの工夫は「通常の事務作業にも通じる」(田中氏)という。

 健常者には普通の動作であっても、障害や病気を持つ人にとっては難しいということは数多く存在する。また、それらは高齢者が感じる難しさでもあり、ひいては健常者でも何となく面倒だと感じていながら我慢している点であることも少なくない。「病気や障害を持つ人々に向き合うことで、高齢者や一般の人にも使いやすい製品やサービスづくりにもつながるのではないか」と田中氏は意見を述べる。

 加えて田中氏は「病気や障害で長期に入院している子どもや若者たちにとって、ゲームで一般社会との接点が増えるというのはとても大きなインパクトだ」と語る。「八雲病院の患者たちは一様に、『ゲームを通じて一般社会とのつながりを持てた』ことを楽しそうに、興奮気味に語っている」(田中氏)。

 身体が動かなくなっていく、という現象は、何も病気を抱えた人々のものだけではない。若手の健常者も、年齢を重ねるごとに身体の自由度は少なくなる。我々が迎える運命を見た場合、時間の違いはあれども本質的な差異はない。

 しばしば、人は失ってはじめてその大切さを自覚すると言われる。また、持っていないからこそ持っていることの素晴らしさを認識するとも言われる。ユニバーサルeスポーツに挑戦する病気や障害を持つ人々の姿は、人生という限りがある時間軸の中で健常者も見据えるべきものを示唆している。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)