武田薬品工業が中心となり、2018年4月にオープンした神奈川県藤沢市の「湘南ヘルスイノベーションパーク(湘南アイパーク)」(関連記事:タケダの敷地に出現した「湘南アイパーク」とは何か?)。創薬・バイオ関連で国内随一の研究開発施設として存在感を高めており、オープンからわずか3年余りで120強の企業・団体、約2200人が集積するまでに成長した。

なぜこれほどまでに急激な発展を遂げることができたのか。2021年8月26日に湘南アイパークが開催したメディア向け説明会の内容から、その背景をひもといていこう。

湘南アイパークの入居・入会企業(オンライン発表会のキャプチャー)
湘南アイパークの入居・入会企業(オンライン発表会のキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

 コマーシャル&ビジネスディベロップメントヘッド兼コミュニケーションヘッドを務める中川弘規氏は、湘南アイパークの理念を「革新的なアイデアを社会実装する場であり、世界に開かれたライフサイエンスエコシステムの構築が目標」と定義する。それらを実現するために、以下の5点を具体的な支援策として挙げた。

説明にあたった湘南アイパークの中川弘規氏(オンライン発表会のキャプチャー)
説明にあたった湘南アイパークの中川弘規氏(オンライン発表会のキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

・質の高い研究施設と研究支援の提供
・エコシステムを豊かにする多様なプレイヤーの誘致
・産官学の交流促進
・ベンチャー育成
・創薬R&Dを支援する新規事業の育成

 こうしたビジョンに基づき、同所では人材が集まる仕組みを整備した。オープンから1年後の2019年5月には入居せずとも湘南アイパークのコミュニティに参加できるメンバーシップ制度を導入。大企業とベンチャーの交流促進を図り、オープンイノベーションが生まれる土壌を育んできた。その顔ぶれは大手製薬企業、ベンチャー、アカデミア、行政、ベンチャーキャピタルまで多岐にわたる。最近ではAI関連企業、保険会社、mRNA治療薬の製造企業、細胞農業関連企業などさらに多様化している。同所ならではの利点を、中川氏は次のように説明する。

 「日本最大の創薬・バイオ研究施設として、十分なファシリティを備えていることが強み。これにより迅速な始動を実現する。さらに前臨床試験のプロセスを単一施設内で一気通貫で実施でき、GMPグレード(医薬品の製造販売に必要な品質管理基準)の実験といった高度研究にまで対応することから、最先端の研究に集中できる。

 それだけではなく、“集中と開放”を両立させる研究者ファーストの開放的な空間設計を意識した。ミーティングスペースやカフェテリアなど、オープンイノベーションを促進する多様な交流スペースを設けた。入居者やメンバーシップ会員との情報交換やディスカッションの場として有効活用している」(中川氏)

充実したファシリティが研究を支える(オンライン発表会のキャプチャー)
充実したファシリティが研究を支える(オンライン発表会のキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

資金調達額も伸長、成長エンジンは年間120回以上にも及ぶイベント

 成果は着実に現れている。コロナ禍に見舞われた2020年度にあっても、新規コラボレーション数は913件、新規IP申請数は50件、資金調達額は28.9億円と前年度から大きく伸長した。成長エンジンは年間120回以上にも及ぶイベントだ。「サイエンスからビジネスまで、幅広いテーマでイベントを開催してきた。自社の活動に閉じず、コラボしながら研究事業を加速させる点が特徴」と中川氏は説明する。

 イノベーション創出にあたっては、探求、共創、実装の3つを軸にサポートメニューを用意する。例えば探求では各社の研究者がそれぞれ最先端の論文を持ち寄って紹介し合う「サイエンスカフェ」、経営に必要な専門分野への無料相談「iPark SAMURAI」などがある。

 続く共創では、入居企業やメンバー企業で協業のベストパートナーを検索して、実際の面談までできるマッチングシステムの「Virtual Partnering」が効いている。最後の実装では、スポンサー企業の協賛やクラウドファンディングの活用により、ベンチャーやアカデミアのシーズが世に出るための資金援助を行なう。投資の活性化にあたり、ベンチャーキャピタルや製薬企業の研究開発部門が一堂に会してノウハウ共有や議論を交わすコンソーシアムも組織した。

探求、共創、実装の3つを軸にしたサポートメニュー(オンライン発表会のキャプチャー)
探求、共創、実装の3つを軸にしたサポートメニュー(オンライン発表会のキャプチャー)
[画像のクリックで拡大表示]

通常では考えられない連携が実現

 これらのオープンイノベーションは、大企業同士の連携も生み出した。入居企業の武田薬品工業と田辺三菱製薬は社内評価データ共有による創薬の加速化を目指す。「通常では考えられないが、同じコミュニティに属している安心感、信頼感があったことが実現につながった」(中川氏)。そのほか、クラウドサービス/IT大手の日本マイクロソフトと日本IBMが手を組み、AIベンチャーとともにAIやDXの無料相談に乗るサービスも始まった。

 中川氏は湘南アイパークが選ばれた背景として「大企業における研究所再編、オープンイノベーションの進展、創薬ベンチャー、アカデミアの台頭」を挙げた。大企業では老朽化した専用施設を建て替えるのではなく、むしろ分散した研究所を集約して効率化したいとのニーズが増えているという。そしてベンチャーやアカデミアは、初期投資を抑制しながら高度な設備で研究に没頭でき、製薬企業と同じ屋根の下でつながることができる。“日本発の創薬イノベーションハブ”として、今後の活躍にさらなる期待が高まる。

■変更履歴
記事初出時、「1200強の企業・団体」とあったのは「120強の企業・団体」でした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。

(タイトル部のImage:剣持 悠大)