脊髄損傷や脳梗塞への再生医療の実用化を目指す

 ケイファーマが、もう一つ手掛けるのが、再生医療の実用化だ。岡野氏らは、2019年冬から慶應大学病院において、脊髄損傷の患者に対する臨床研究をスタートする計画である。交通事故などで脊髄が重傷を負うと、脳からの指令が手足に伝わらなくなり、重い麻痺などの障害が残る。国内では年間5000人が新たに発症し、累積で10万人の患者がいるとされる。

 計画では、脊髄を損傷してから2~4週間以内の亜急性期の患者(18歳以上)4例を対象にして、京都大学が備蓄しているiPS細胞を慶應大において神経幹細胞へと誘導し、約200万個を損傷した患部に注入して、移植後1年間かけて経過を観察する。治療の安全性の確認が主たる目的だが、副次項目として有効性も調べている。ケイファーマは、より有用なiPS細胞を活用し、脊髄損傷や脳梗塞などに対する再生医療の実用化を目指す。

 各界に広く卒業生を輩出している慶應大学のブランド力があることは、同社の強みになっている。例えば、ALSの治験では、被験者20人の募集に対して約1300件の問い合わせが殺到し、試験基準に適した病態の患者を集めることができた。また、研究員募集に際しても50人を超す応募があり、意欲と技術を兼ね備えた9人の人材を採用できた。研究所は、湘南ヘルスイノベーションパーク(神奈川県藤沢市、略称:湘南アイパーク)の一角に構え、治療の最適化のための研究に取り組んでいる。

 2016年の創業から3年で、ベンチャーキャピタルなどから順調に増資を続けるケイファーマは、現在の株主資本が4億円を超える。さらに将来のIPO(新規株式公開)を見据えると、財務体質の強化や資金調達も課題となるが、金融界に卒業生の多い慶應人脈が強みを発揮する可能性がある。

 岡野氏は、「医学研究者は論文を書くだけでなく、本当に患者を治したい。細胞や動物で効果を確認するだけでなく、ヒトの治療に生かせないと意味がない。会社を末長く育てていきたい」と語る。確実に希少疾患の治療薬を承認に導いた後には、アルツハイマー病やパーキンソン病など、患者数が多い疾患の治療も見据えている。

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