「これだけの精度で診断できる物質は他に見つかっていない」

 血液中のPEA濃度は、1.5μM(マイクロモーラー)が目安で、これより低いとうつ病だと診断できる。77人を対象に検証した結果では、うつ病の人を「うつ病である」と正しく診断できた確率(感度)は88.1%、うつ病でない人を「うつ病でない」と正しく診断できた確率(特異度)は88.6%だった。「うつ病のバイオマーカーについては世界中で研究が進められているが、今のところ、これだけの精度で診断できる物質は他に見つかっていない」と川村院長は自信をのぞかせる。国内外の研究者からの問い合わせも少なくないそうだ。

* Psychiatry and Clinical Neurosciences 2018; 72: 349-361

 PEAはほとんどすべての生物種に存在し、脳や肝臓、動脈、心筋などに含まれる。中でも圧倒的に多いのは脳で、神経細胞の軸索部分や細胞膜に多く存在する。脳内ではリン酸アナンダミドが分解された結果、PEAやアナンダミドが生まれる(図2)。アナンダミドは脳内麻薬様物質(脳内に自然状態で分布している麻薬のような作用のある物質)で、喜びや快感に関わる報酬系の物質の一つ。お釈迦様の弟子の名前“アーナンダ”に由来し、もともと「歓喜」を意味する。

図2●脳内でPEAが作られるプロセス
脳内でリン酸アナンダミドが分解されると、アナンダミドやPEA、アラキドン酸が生じる。これらは血液中に溶け込んで全身を巡る。うつ病では、大元のリン酸アナンダミドが減るため、その分解物であるPEAなどの物質も減少する。アナンダミドやアラキドン酸は脳以外の経路でも血中に増えるので、うつ病のバイオマーカーとしては使えない(出典:川村院長著書『血液でうつ病を測る』p.13を基にBeyond Healthで作成)

 「PEAも、同様に喜びなどの感情に関係していると考えられる。うつ病は喜びを感じられなくなる病気だから、脳内で喜びに関わる物質が少なくなっているのも当然と言えば当然だろう。PEAができる過程については、リン酸アナンダミドが“弁当”で、弁当の“中身”がアナンダミド、弁当の“容器”がPEAと考えるとわかりやすい。弁当が減れば容器も減る。容器を数えれば弁当の数もわかるというように」と川村院長は説明する。

 なお、うつ病と明らかな相関がある物質はPEA以外にも見つかったそうだ。「タウリンもPEA同様、うつ病になると減少することが判明した。しかし、食品や薬品、ドリンク剤などにも含まれる物質なので、食事などの影響を受けやすい。結局、うつ病に特異的なマーカーとなり得るのは、唯一PEAだけだった」。