リラックス効果を付加価値にしてファン層を拡大へ

 では、月桂冠は、これらの研究成果をどのように活用・展開していくのか。1つは、新製品の開発だ。同社が持つ育種・生産技術によってカプロン酸エチルや酢酸イソアミルの濃度にバリエーションを持たせれば、消費者は香りの好みに合わせて製品を選べるようになるかもしれない。

 さらに、リラックス効果という吟醸香の機能性を情報として提供できれば、製品の付加価値が高まる。インターネット調査によると、自宅で飲酒するときの気分で最も多いのは「リラックスしたい」だという*2。このことからも、家で飲酒する人に向けてはリラックス効果が訴求材料になると考えられる。

*2 2018年、マイボイスコム「お酒の飲用に関するアンケート調査」

 既に同研究所は、カプロン酸エチルを大量に生産する酵母を育種し、従来の約2倍の濃度でカプロン酸エチルを含む日本酒を量産することに成功している*3。カプロン酸エチルを多く生産する酵母は通常、「カプロン酸エチルの生産を促す遺伝子」と「通常の遺伝子」が対になっているが、同研究所は「カプロン酸エチルの生産を促す遺伝子」同士が対になった菌株を見出し、選抜した。

*3 2020年3月26日付、月桂冠のニュースリリース

 この成果を活かしたのが、同社が2020年4月にリニューアルして発売した「THE SHOT」シリーズの「華やぐドライ 大吟醸」だ(写真3)。カプロン酸エチルが増えたことで、青リンゴや洋ナシのような「フレッシュでフルーティな香り」(月桂冠)が高まったとする。

 加えて、できあがった酒が熱に触れる時間を縮めるなど製法も見直し、香味の保持にも配慮した。同時にリニューアルした「艶めくリッチ 本醸造」も、「完熟果実のような甘くとろける香り」(同社)を特徴とする。甘みと酸味のバランスを工夫して「果汁感」を実現した他、通常よりも仕込みを多く重ねることで甘みを引き出したという。

写真3●「THE SHOT」シリーズの「艶めくリッチ 本醸造」(左)と「華やぐドライ 大吟醸」(右)。気軽に持ち運べて自分のペースで気軽に楽しめる」をコンセプトに、手のひらに収まるサイズのボトルと再度の閉栓が可能なスクリューキャップを採用している。リニューアルでは、香りの進化に加えて甘味と酸味のバランスなども見直した(出所:月桂冠)

 リニューアル後の販売に当たって同社は、華やぐドライにはチョコレートと、艶めくリッチはチーズケーキと相性が良いと紹介し、日常の生活だけでなくスイーツやフルーツと組み合わせて楽しむことを提案(写真4)。「夜のリラックスタイムでの飲用におすすめです」とアピールする。

写真4●「THE SHOT 艶めくリッチ 本醸造」とチーズケーキのペアリング。リラックスタイムでの飲用を想定し、チーズケーキとの組み合わせを提案する(出所:月桂冠)

 併せて同社は、吟醸香の機能性を広く伝えるために、「日本酒の香りで癒しのひとときを」と題したスペシャルサイトをホームページ上に開設(写真5)。研究成果と共に、吟醸香の楽しみ方を掲載した。

 例えば、ドライフルーツやアイスクリームなどスイーツと組み合わせる、白身魚や豆腐と組み合わせる、入浴時に湯に入れる、といった具体的な楽しみ方を挙げ、酒器選びのコツも紹介している。同社が実施したアンケートによると、アルコール飲料を飲む時間は夕食中や夕食後が多く「シーンやタイミングが限定されている」(同社)。新たなペアリングや活用シーンの提案を通して、日本酒を飲む機会と消費者層の拡大を図る。

写真5●スペシャルサイト「日本酒の香りで癒しのひとときを」のトップページ。研究成果や食べ物とのペアリング、製品情報などをまとめている(月桂冠のホームページのスクリーンショット)