社外とのコラボで新たな用途も探る

 国税庁の統計では、成人1人当たりの酒類消費数量や課税移出数量(国内出荷数量)は減少傾向にある*4。日本酒(清酒)も同様で、その国内出荷数量は、2008年度(約65万kL)から2018年度(約49万kL)の10年間で25%減少している。その一方で、純米酒や純米吟醸酒の国内出荷量は、2008年度(約8万2000kL)から2018年度(約11万3000kL)で37.8%増加。清酒製造業における出荷金額の単価も上昇しており、国税庁は「高付加価値商品の需要の高まりを表す」と分析している。

*4 2020年3月、国税庁「酒のしおり」

 さらに海外に目を向けると、日本酒を含めて日本産の酒類は評価を高めており、日本酒の輸出金額は10年連続で過去最高を更新してきた。政府も、制度でこの動きを支援。2019年に発効した日本・欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)では、EU側が清酒の関税を即時撤廃した。国際的なプロモーションや訪日外国人向け「酒蔵ツーリズム」の支援など、認知度の向上やブランディングによる輸出促進も進んでいる。

 月桂冠も当然、海外市場の開拓を強化することになるが、その際、吟醸香がリラックス効果をもたらすという科学的な裏付けが武器になりそうだ。例えば、アロマテラピーが根付く欧州では吟醸香の機能性が理解されやすく、香りの良さと心理的・生理的な機能性が付加価値になると推測できる。

 社内や業界内で研究を活かす他に、異業種とのコラボレーションの可能性もある。参考になりそうなのは、花王との共同研究により染毛料の原料を開発した経験だ。

 麹菌の有用遺伝子を解析する中で同研究所は、酒粕に黒い斑点を生じさせる「黒粕現象」の原因の解明に取り組み、米麹などで特異的に発現する遺伝子「チロシナーゼ遺伝子」が作り出す着色成分「ジヒドロキシインドール」を見つけ出した。日本酒の醸造においては“悪者”だったこの麹菌チロシナーゼを、同研究所と花王は白髪ケアに応用。麹菌チロシナーゼ遺伝子を用いてジヒドロキシインドールを工業的に生産する技術を開発し、染毛料の原料として安定して利用できる方法を検討した。

 共同研究を基に花王は、ジヒドロキシインドールで徐々に白髪を黒く色付ける「サクセス ステップカラー」(2009年)や「リライズ 白髪用髪色サーバー」(2018年)を製品化している。低分子化合物であるジヒドロキシインドールは、毛髪の表面付近で集合体を形成しながら、表層に定着する。そのため毛髪には直接作用せず、毛髪や頭皮に与えるダメージが少ないという特徴を持つ。さらにこれらの製品は、無香性でツンとしたにおいがしない、頭皮に付いても着色しにくいのも利点だとする。

 発想の転換により“悪者”をうまく活かしたこの例のように、異業種との連携は「思いがけない用途に気づかせてくれる」(鈴木氏)。カプロン酸エチルや酢酸イソアミルがもたらすリラックス効果についての発表は、日本農芸化学会の2020年度大会で「優秀発表」に選ばれるなど注目を集めている。地元行政も興味を持ち、ある産業と協業できないかとアイデアを寄せたという。「我々の手(酒造分野)を離れた所で、意外な役立ち方があるかもしれない」と、鈴木氏らは異業種との出会いに期待を寄せる。

(タイトル部のImage:Beyond Healthが撮影)