治そうとせず、アドバイスもしない。対話の継続で治癒が進む

 なぜこれほどODに注目が集まるのか。それを知るために、ODとはどのようなもので、何がユニークなのかを整理したい。冒頭で「患者の妄想や幻覚についてあえて具体的に聞く」という一例を紹介したが、ODには他にもいくつか重要な考え方がある。斎藤教授に解説してもらった。

●ひたすら対話を続ける

 ODでは、対話の目的は対話自体、つまり「対話を続けること」にあるとする。「精神科では、周囲が治そうと頑張りすぎるほど治りにくくなる、ということがしばしば起こります。ODでは、問題点を指摘したり診断をするといった価値判断を一切手放し、ただひたすら対話を続けることに没頭します」(斎藤教授、以下コメントは全て同)

 チームの各人が主観と主観を交換し合う。妄想や幻覚があるときは、患者が住んでいる世界のありようを詳しく聞き、こちらの主観と交換する。よく分からなければ、「もう少し説明していただけますか?」と尋ねる。「驚くべきことに、ただ対話を続けていくだけで、治癒や改善が起こり始めるというのが、ODの非常に優れているところだと思います」。対話では結論を出さないことも大切だという。「結論を出すと対話は終わってしまいます。対話というプロセスを続けていくことを何より大切にします」

●アドバイス、説得、議論はしない

 アドバイス、説得、議論はしない。なぜなら、それはいくら「正論」であっても患者にとっては「結論ありきの押しつけ」となり、圧力となるからだ。「相当、慣れた人でもついアドバイスをしてしまいます。我々はみな他人を変えることにすごく興味があるので、つい相手を変えようとして最も効果的と思えるアドバイスをしたがる性癖があるのです。ODを行うときには、そこを乗り越える必要があります」

●個人でなくチームで行う

 ODは1対1ではできない。治療チーム側は最低2名は必要で、複数名のチームで行う。これは「二者関係という密室」を避けるためだ。「二者関係はどうしても支援者と被支援者という上下関係になり、スタックしやすい(行き詰まりやすい)のです。チームでの対話だと、『この(対話の)回路が使えなくなったら別の回路を』と、対話がどんどんつながっていきます。また、患者の関係者を巻き込むことによって話題が広がり、患者とその周囲の関係も同時に修復されていくという側面もあります」

※二者関係の問題については次回後編でもお伝えする。

●患者に治療者を観察してもらう「リフレクティング」を行う

 ODでは、約1時間~1時間半ほどの対話のなかで、「リフレクティング」という時間を必ず設ける。リフレクティングとは、治療者チームが患者や家族の目の前で対話の感想や治療方針について話し合うもので、患者とは椅子の向きを変えて行う。このとき治療チームは、患者や家族の健康的な面に着目し、ここまでの苦労や努力を肯定的に評価するよう努める。治療者の迷いや治療者同士の意見の不一致も、そのまま患者に見てもらう。

 自分のほうを見ないで治療チームが自分のことを話している、というのは不思議な感じがするが、「目の前で自分のことが噂話のように話されていると、多くの患者はその内容を素直に受け取ることができる。そして、心の余白を取り戻していくのです」。心の余白とは、言い換えると、自分の在り方を選択する余地、心のスペースのようなもの。「ODは、患者の傷ついた主体性を回復していくことができる。これまで複数の症例を見てきて、それを強く確信しています」

 患者の中には、「話したくない」という人もいるのではないだろうか。「話したくない方に無理に話してもらうということはしません。しかし、誰かが自分のことを話しているのを側で聞いていると、患者も刺激されて、結果的にしゃべりたくなるということがよく起こります」

 ODによって患者は「自分の話をしっかり聞いてもらえた、尊重してもらえた」と感じ、心を開く。本人から無理に言葉を引き出そうとせずとも、自(おの)ずから話したくなる仕組みがある。斎藤教授はODの手法に出合ったとき「非常によくできた工夫がいくつも凝らされている。コロンブスの卵的な発明だと感じました」と言う。

 これらの注意点を心掛けながら、「対話を続けていく」。すると、その副産物、おまけとして勝手に治癒したり、解決したりということが起こる。しかし、それはあくまでもおまけであり、最初から“治そう”というゴールを設定していると逆に回り道になって辿り着かなくなるという。「治そう、良くなろうという下心を捨てて対話のプロセスに没頭していくことが重要です」

斎藤教授が2015年に視察を行ったケロプダス病院にて。イスが並べられたリビングのような部屋でODは行われる(写真提供:斎藤教授)
斎藤教授が2015年に視察を行ったケロプダス病院にて。イスが並べられたリビングのような部屋でODは行われる(写真提供:斎藤教授)
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