日本の精神医療を大きく変える可能性

 我が国でODに対する注目が急速に高まっている理由として、斎藤教授は「日本の精神医療の行き詰まりへのカウンターとしての期待が集まっているのでは」と分析する。その行き詰まりとは何か。構造的な問題として、「日本の精神医療には入院治療中心主義と薬物治療至上主義がある」と言う。

 「うつ病でも統合失調症でも、この検査データがこうなったら確実にその病気、というバイオマーカーは発見されていません。しかし、病因を脳に還元し、社会とのつながりは軽視されがちです。心ある精神科医もいるものの、多くは薬物治療のみを重視し、『薬を飲みたくないなら治療はできません』という医師すらいます。また、日本は世界の中で最も多い33万床という桁外れの入院病床数[2]があり、さほど必要のない人まで入院治療認定されているという状況があります。入院治療では隔離や身体拘束など人権が侵害されるような劣悪な環境が起こりがちです。国民にも『頭のおかしい奴とは共存したくない、病院に入れてしまえ』という発想があります。一方、世界全体では、精神疾患があっても地域や自宅で暮らしていけるようにという流れがあり、日本は真逆の方向性にある。つまり日本の精神医療は、先進国の中で最も遅れた体制にあると言わざるを得ないのが現状です」

 斎藤教授は現在、勤務する大学病院やクリニックでODの治験を行っている。「30年以上、精神医療に携わり、うち20年以上、入院病棟を経験してきました。薬やカウンセリング的な方法での治療は長く経験を重ねてきましたが、治しきったという実感は持てないでいました。しかし、ODによって薬なしで患者の妄想や幻聴を取り除くことができるという経験をし、初めて、自分の手できちんと治療ができたという実感があり、本来はこれが医師の仕事であろうと感じました。チームに加わる看護師などの医療スタッフも、治療に直に関わることができる充実感が大きいと話しています」と斎藤教授は言う。

 精神疾患は再発リスクとも向き合う必要があるが、ODではどのように捉えるのだろう。「統合失調症にしてもうつ病にしても、再発のリスクがあるために“寛解”という言い方をします。統合失調症では妄想や幻聴がひとまず消える、うつ病の場合は意欲が回復して再び働き始める、といったあたりが寛解と言えるでしょうか。通常の治療では、再発を防ぐために、長期間服薬を続ける場合があります。それは患者にとって安心のためでもありますが、薬ですからどうしても副作用があったり、通院が手間であるなど、患者の生活に支障を来す側面がある。医師は再発を防ぎたい一心でこの薬は一生飲んでくださいと言うわけですが、言われる方にとっては厳しい言葉でもあります」

 一方ODでは、「対話によって治る、つまり寛解となったら治療は終了です。再発したらまた対話をすればいいというのは、患者にとっても安心となります。『ぶり返したら薬を飲みましょう、ただし2倍量になります』という話とは全く違い、『再発恐るるに足らず』というふうに構えることができるのです」。

 精神疾患は、本人はもちろん、周囲にとっても苦しいもの。対話を続けることによって自らを追い込む思考から「開いていく思考」に変化していくODは、本人はもちろん周囲の人の内側からの治癒を促し、再発リスクも下げる。次回後編では、このような好循環が期待できるODが今後、医療や社会全体に広く活用される可能性と課題について聞く。

[参考文献]

[1]WHO.Guidance on community mental health services: Promoting person-centred and rights-based approaches.2021

[2]OECD Health Statistics 2021

(タイトル部のImage:アフロ)