VR技術を使って認知症の人が見えている視点をリアルに再現。参加者は認知症の人の不安や心配な気持ちを体感し、さらに予防効果が期待できるダンスを踊ることで、認知症に備えていける。これらをワンパッケージにおさめた「リバイバルライフ」プロジェクトは、エイベックスと朝日新聞社が手を結ぶことで生まれた。一見無関係の2社がタッグを組んだ認知症に備えるためのプロジェクト。誕生の裏には両社の思いが重なりあう偶然があった。

TRFのメンバー。左からETSU、SAM、CHIHARU(写真提供:エイベックス・マネジメント)
TRFのメンバー。左からETSU、SAM、CHIHARU(写真提供:エイベックス・マネジメント)
[画像のクリックで別ページへ]

 「エイベックスに入社以来、様々なアーティストやタレントのマネジメントをやってきました」

 そう語るのはエイベックス・ヘルスケアエンパワー合同会社の保屋松靖人さんだ。入社時は小室哲哉氏が巻き起こしたダンスミュージックブームの全盛期だった。入社間もない保屋松さんが邦楽部門で初めて担当したのはダンスミュージック界の頂点に君臨するTRFだった。

 『寒い夜だから…』『BOY MEETS GIRL』『CRAZY GONNA CRAZY』──。デビュー3年目のTRFはこれらヒット曲を連発。テレビ、ラジオでその歌声を聞かない日はなかった。

 TRFの後もAAAやピコ太郎など、エイベックスでマネジメント畑を歩き続けた保屋松さんだったが、あることがきっかけで全く別の世界に目を向けるようになった。

 「今から7年前、当時小学校6年生だった長男が横紋筋肉腫という病気にかかってしまったのです」(保屋松さん)

エイベックス・ヘルスケアエンパワーの保屋松靖人さん(写真提供:エイベックス・ヘルスケアエンパワー)
エイベックス・ヘルスケアエンパワーの保屋松靖人さん(写真提供:エイベックス・ヘルスケアエンパワー)
[画像のクリックで別ページへ]

 横紋筋肉腫とは、筋肉などの軟らかい組織に発生する肉腫のひとつだ。小児もかかりやすいがんとして知られる。

 「それまで小児がんのことなど全く知らずに生きてきたのですが、長男が罹患したことをきっかけに、自分なりにいろいろと勉強しました」(同)

 闘病生活のなかで、同じ病気に苦しむ患者さんたちとの交流もあった。そのような経験を重ねるうち、「自分の携わっているエンタテインメントを通じて、社会に貢献できる仕組みづくりができないだろうか」と考えるようになったという。

 「幸い、その後長男の病気は快方に向かい、今では元気に生活できるようになっています」

 家族の生活が元通りになってからも、保屋松さんの心に「エンタテインメントによる社会貢献」の思いは残った。

 もうひとりのキーマンが朝日新聞社の坂田一裕さんだ。朝日新聞や週刊朝日の記者として活躍した坂田さんが、社内の新規事業を担う総合プロデュース本部に移ったのは5年前のこと。

朝日新聞社総合プロデュース本部の坂田一裕さん(写真提供:朝日新聞社)
朝日新聞社総合プロデュース本部の坂田一裕さん(写真提供:朝日新聞社)
[画像のクリックで別ページへ]

 「総合プロデュース本部は新聞社のさまざまなリソースを活用して新たな事業を創出するための部署です。記者・編集者時代は長く医療・健康領域を中心テーマとして取材をしていました。やがてこれがライフワークとなり、いまは認知症をテーマにしてコンテンツの作成を続けています」(坂田さん)

 そう話す坂田さんが2019年4月から始めたのが「認知症フレンドリー講座」だ。

 「VR技術を使って、認知症の人が見えている視点を再現し、これを受講者に体験してもらう『認知症VR体験』を軸に、認知症を『自分事』として考え、認知症の人に寄りそうきっかけをつかんでもらう講座です。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、対面での講座開催には制限がある厳しい状況ですが、それでも立ち上げからこれまでに約5000人(2021年3月時点)に受講いただいています」(同)

認知症フレンドリー講座の様子。VR技術を使って認知症の疑似体験などを行う(写真提供:朝日新聞社)
認知症フレンドリー講座の様子。VR技術を使って認知症の疑似体験などを行う(写真提供:朝日新聞社)
[画像のクリックで別ページへ]

 ここまでに紹介した保屋松さんと坂田さんが出会うことで、認知症について「学び」、そして「備える」ことができる「リバイバルライフ」プロジェクトが立ち上がるのだった。