おっちゃんたちの物語とは

 そもそもなぜ、このおしゃれなカフェが誕生したのか、運営本体であるシクロ代表取締役の山﨑昌宣氏に聞いた。

 「西成のドヤ街に住まわれている“おっちゃんたちの物語”をベースに、おっちゃんたちの手でやっていけるような店を作りたくて、その結果、この形のカフェになったということです」(山﨑氏)

 ドヤ街とはつまり、肉体労働者の街である。かつて高度成長を支えた労働者たちも今は年をとった。仕事はなくなったが西成に住み続け、生活保護を受けている人も少なくない。介護など社会的支援を必要とする方も少なくない。

 そうした人たちを山﨑氏は愛情を込めて“おっちゃんたち”と呼ぶ。それにしても、おっちゃんたちの物語とは妙な言葉だ。まずはそこからひもといていく。

シクロ代表取締役の山﨑昌宣氏

 そもそもシクロは、西成地区を拠点に、デイサービスやデイケア、訪問看護ステーション、生活相談窓口などを展開する介護事業者である。

 「この地区には、高齢者も多いけど、精神的にちょっと弱い方もけっこういらはります。また酒に溺れはる方ってやっぱり多くて。そういう問題を何とかできないかと考えていたときに、朝からエスプレッソとかを出せる店を西成のど真ん中に作ることができたら、朝イチの一杯の酒をエスプレッソに置き換えることができるやないか。みたいなことを数年前から考えるようになったんです。店を運営するのもおっちゃんたちに任せる。そういうことで、まずは現在のアビタイユモンの前進となる店を始めたんです」(山﨑氏)

 20人ほどのおっちゃんたちが運営する店は固定客も付き、繁盛した。諸々の理由からその店はいったん閉じたのだが、おっちゃんたちの意欲は継続した。

 「フリーマーケットに参加して、現金収入を得るようなイベントの打ち上げとかで、おっちゃんたちによう叱られましてね。『フリマもいいけど、もっと俺らのやる気が出るようなことを考えるのんが社長の仕事やろ』って。『俺らは若いころから酒を飲んできたんや。酒の味ならそこらへんの酒屋よりよう知っとる』というんです。『酒を扱う店やったら、俺らもっと力だせる』、その剣幕にこっちもほだされて、だったらやってやろうじゃねぇか。みたいなことでクラフトビール工場と、それを出す店の構想が動き始めたんです」(山﨑氏)

 ビールを作ってそれを売る。一連の流れをコンセプト化するために、おっちゃんたちの物語が採用された。

 「日本が高度成長期で西成がまだ今よりも活気があった頃、アメリカから金髪の女の子がリュックを背負ってやってきて、その子がビールを作って売っていた、という物語なんです。アメリカがヨーロッパだったり、売っていたんじゃなくて自分で飲んでいただけとか、いやあれはスナックで働いとった女の子や、などなどその話にはいろんなバリエーションがあるんです。けれども、どれも金髪の女の子とビールはセットなんですよ。そんならそれを再現しようやないか、という感じで、どんどん計画が膨らんだんです」(山﨑氏)

 そして構想から5年、2018年の3月に食事もできてビールも飲めるアビタイユモンが誕生したのだった。介護や生活保護などの福祉の手助けが必要なおっちゃんたちも店に出る。

自前のビール工場

 「そもそも飲酒グセのある人が多いですけど、店に出ているときは不思議と呑まない。仕事をしているという自覚がそうさせるのだと思います。ここで働いて、生活保護から脱出することができたおっちゃんもいますよ」と山﨑氏は笑う。

 介護事業所が本業のシクロだからこそ、支援と仕事が融合した素晴らしい取り組みだ。山﨑氏は、西成で介護事業を展開する意味を次のように語る。