培養肉が地球と宇宙のたんぱく質不足を救う
2020年秋、インテグリカルチャーはクラウドファンディング「スペースバーガープロジェクト」を実施した。返礼品は食品として摂取可能な成分からなる培養液の素「スペースソルト」と、宇宙で食べることを想定した「スペースソルト・ゼリーピクルス」だ。
「有人宇宙旅行が当たり前の時代になれば、宇宙で食料を生産することになるでしょう。野菜は植物工場が、たんぱく質は培養肉がそれぞれ適していると思いますが、食の満足度(QOL)も重要なので、培養肉バーガーを企画しました。いつか火星基地で地産地消の培養肉バーガーを提供したいですね」
培養肉開発の技術的な課題の1つが筋繊維の再現だ。細胞を塊状に培養することは可能でも、一定の指向性を持った構造体に仕上げることは容易ではない。「生体組織工学などの知見が必須で、再生医療分野でもステーキ肉のようなレベルの筋繊維は誰も実現できていない」(羽生氏)というハードルの高い挑戦だが、この市場に多くの企業が熱い視線を注ぐ。
2021年4月、インテグリカルチャーは12事業体と共に細胞農業オープンイノベーションプラットフォーム「CulNetコンソーシアム」を発足した。食品大手のハウス食品グループ本社だけでなく、荏原製作所や千代田化工建設などプラント開発に貢献する企業も加わっており、将来的に想定される、培養肉などのサプライチェーン構築を目指して活動している。
世界人口はいずれ100億人に迫り、食糧不足が懸念されている。しかし、問題の本質は人口増でもカロリー不足でもなく、新興国の食生活の変化で起こるたんぱく質(プロテイン)争奪戦で、「中国の経済成長で一部食材の争奪戦が起きたように、地球規模でプロテインクライシスが起こり得る」と羽生氏は指摘する。
加えて、昨今は畜産の環境負荷が問題視されている。漁業にしても生態系に及ぼす影響は大きく、SDGsの観点からも培養肉や代替肉は必要不可欠と言えそうだ。
「培養肉は様々な社会問題や環境問題の解決に貢献できます。私たちが培養肉に挑んだきっかけはSFでしたが、いつか人間にとって必要となるものが描かれていたことを、いま改めて実感しています」
(タイトル部のImage:出所はインテグリカルチャー)