国土交通省、経済産業省、環境省の3省は、政府が進める2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)実現に向けて、住宅や建築物に関する具体的な対策や今後のスケジュールをまとめた報告書、「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策などのあり方・進め方」を8月23日に公表した。2050年時点でのカーボンニュートラルの実現をゴールに、バックキャスティング(さかのぼり)の手法で、中期的には2030年、長期的には2050年までに取り組む実行計画とロードマップ(工程表)を定めている。今後、各省において、報告書に位置づけられた取り組みの具体化を進める。

報告書の策定に当たっては、3省合同の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」を設置し、今年4月から計6回の議論を重ねてきたところ。検討会での議論の様子や最終的なとりまとめ資料の概要についてリポートする。

 2020年10月の臨時国会において、菅義偉首相は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と発言した。いわゆる「2050年カーボンニュートラル(炭素中立)」宣言だ。2021年3月に閣議決定した「住生活基本計画」では、2050年の住宅分野での脱炭素化に向けて、バックキャスティング型で行うべき施策のロードマップを策定することを盛り込んだ。これを受け、今年4月に国土交通省、経済産業省、環境省の3省合同で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が設置された。

脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会の様子(第1回)。検討会は動画配信サイトに設けられた「経済産業省ライブ配信チャンネル」からネット配信された(出所:経済産業省)
脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会の様子(第1回)。検討会は動画配信サイトに設けられた「経済産業省ライブ配信チャンネル」からネット配信された(出所:経済産業省)
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 日本における最終エネルギー消費の約3割は、民生部門(業務・家庭部門)が占めており、住宅分野においても省エネルギー化や脱炭素化が急務とされている。検討会では、各分野の有識者をはじめ、消費者団体や民間企業、自治体の首長などからなる13人の委員が、主に住宅の省エネルギー化・脱炭素化に関する議論を行い、今後の施策立案の方向性を探った。

 検討会は、第2回までに各種関係団体からのヒアリングを実施。第3回では事務局が今後の取り組みのあり方・進め方に関する「たたき台」を提示した。これを基に第4回以降、各委員による議論が行われ、その都度事務局が委員の意見を反映して、文書を加筆、調整していった。

2030年までに省エネ基準を「ZEH・ZEB」レベルに、新築戸建ての6割に太陽光発電

 では8月23日に公開された「取りまとめ」資料のうち、ポイントとなる点を見ていこう。

 まず「2050 年及び2030 年に目指すべき住宅・建築物の姿」として、最終ゴールの2050 年には、「ストック(既存の住宅・建物)平均でZEH・ZEB基準の水準(※1)の省エネ性能が確保されているとともに、その導入が合理的な住宅・建築物では太陽光発電設備などの再生可能エネルギーの導入が一般的となる」状態を目指す。

 ZEHはネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、ZEBはネット・ゼロ・エネルギー・ビルの略で、高い断熱性能に太陽光発電などを組み合わせ、エネルギー収支を実質ゼロにする住宅・建物を指す。

 そうした2050 年のカーボンニュートラル実現の姿を見据えつつ、2030 年には、「新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB基準の水準(※1)の省エネ性能が確保されているとともに、新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されている」との目標を提示した。

※1 住宅については現行の省エネ基準値から20%程度削減、建築物については用途に応じて30%又は40%程度削減

 この目指すべき姿に至るまでの工程表は図1の通り。2030 年における住宅・建築物における省エネ対策を達成するため、ボトムアップとして規制を大幅に強化する。2025年には、住宅や小規模建築物に対し、現行の省エネ基準への適合を義務化。現在、省エネ基準は、非住宅の大規模~中規模の建築物はすでに適合の義務化が進められているものの、住宅については、一戸建てなど小規模住宅は説明義務、マンションなど中・大規模住宅(300平米以上)は届け出義務にとどまっていた。

 そして、遅くても2030年までに省エネ基準をZEH・ZEB基準に引き上げ、適合を義務付ける。

 なお、これらの取り組みに合わせて、既存ストック対策として、国と自治体による省エネ改修への支援・補助を継続・拡充していく。

 省エネとセットで行う再生可能エネルギーの導入拡大については、太陽光発電設備の設置を促す観点から、国や地方自治体をはじめとする公的機関が建築主となる住宅・建築物について、新築における太陽光発電設備の設置を標準化するとともに、既存ストックや公有地などにおいて可能な限り太陽光発電の設置を推進するなど、率先して取り組む。また、民間の住宅・建築物については、支援制度の拡充に加え、融資や税制でも優遇されるようにする。

図1●脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ(出所:「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」資料)
図1●脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方に関するロードマップ(出所:「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」資料)
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太陽光発電の設置義務化については意見が二分

 今回の取りまとめにあたって、省エネ基準の引き上げ・適合義務化については、既に大規模建築物での規制強化が先行し、住宅分野にも義務化の流れができていたためか、全6回の検討会において大きく意見が割れることはなかった。

 義務化に慎重な意見として、大森文彦委員(東洋大学法学部教授・弁護士)の「義務的措置の導入は、基本的には賛成だが、導入するにあたっては準備期間というのも当然必要になってくる」や、伊香賀俊治委員(慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授)の「適合義務化における要求水準については未だ異論はあるが、取りまとめに関しては現実的なところに着地したと思う。まずはこれで動き出してみるのが良いと思う」など、経過措置や準備期間についての議論、要求水準に対する見解の違いはあったが、基本的には義務化を目指す方向で委員の意見は一致していた。

 目立って意見が割れたのは、太陽光発電パネルの設置義務化の是非についてだ。

 「多雪地域など太陽光発電パネルの設置に不向きな地方もある。安易に義務化を促進する意見は乱暴だと感じる。まずは地域の実情に則した措置や対策が必要だ」平井伸治委員 (鳥取県知事)。

 「ボトムアップを目的とする義務化は段階的にやっていくべき。全ての住宅に一律に規制をかけるということについては、もう少し慎重に検討してほしい。太陽光発電設備の設置6割という数値目標も、現実としてはハードルが高いと感じている」清家剛委員(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)。

 以上のように、何人かの委員が義務化に慎重な姿勢を示す一方で、急進的な義務化を求める委員の意見もあった。

 「2030年に6割の達成を目指すということだが、2050年の最終目標を10割として、2030年以降につくられるものは太陽光発電の設置を義務づけるべきだ。未習熟な中小住宅会社が義務化に後ろ向きで足を引っ張っているとの考えは誤りであり、中小住宅会社は既に準備ができている」竹内昌義委員(東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科長・教授・一級建築士)。

 「取りまとめにおいて、太陽光発電設備の設置目標を明記することにした点は価値がある。だが、なぜ6割なのかという点がまだ明確ではない。個人的には10割の義務化を目指すべきと考えている」諸富徹委員(京都大学大学院経済学研究科教授)。

 結局、大きく二分した意見の落としどころとして、設置義務化は明言せずに、「2030年までに一戸建ての6割に太陽光発電設備の設置を目指し、2050年までに設置が一般的になることを目指す」という表現にとどめながらも、「太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取り組みを進める」ことと記載された。

 議論の取りまとめに至った第6回検討会の最後には、田辺新一座長(早稲田大学創造理工学部建築学科教授)が「2050年のカーボンニュートラルにおいて、住宅は非常に重要な役割を担っている。この点については委員一同、基本的に一致していた。具体的な進め方については、対立する意見もあったが、できるだけ早期に実現できるように取り組む姿勢には異論が無かったと思う」と語り、関係3省に早期のビジョン実現に向けて継続的な努力を進めるよう求め、検討会を締めくくった。

 今回の報告書の作成を受けて、今後、国交省、経産省、環境省の3省はそれぞれ主管する担当分野の取り組みの具体化を進める。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)