新型コロナウイルスの第一波が猛威を振るい始めた3月初旬。山田氏は、READYFORのクラウドファンディングプラットフォームに「副作用の少ない癌治療を、ミトコンドリアに薬を運ぶ技術開発で!」というテーマのプロジェクトページを開設し、支援を呼びかけた。当初は、目標額として650万円を掲げていたが、最終的に総額1000万円の調達に成功した。
がん細胞のミトコンドリアに薬剤を送達するナノカプセル開発
山田氏が取り組むのは、体内の狙った部位に正確に薬を送り届ける「ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)」を活用し、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアに薬剤を送り込む技術の開発である。DDSにより、治療効果を最大限に高めながら、副作用は最小限に低減できると期待されている。
北海道大学で薬学を修めた山田氏は、2002年に研究をスタートさせ、内部に薬剤を封入して、ミトコンドリアの内部まで送達できる「MITO-Porter」(マイトポーター)というナノカプセルの開発に至った。
一方に、光線力学的療法(PDT)という既存治療があり、腫瘍に親和性の光感受性物質とレーザー光線とを併用して、がん細胞の内部で光化学反応を引き起こし、腫瘍組織を選択的に死滅させようというものだ。山田氏が開発中の治療は、がん細胞のミトコンドリアにMITO-Porterを送り込み、光を与えて破壊する。封入する薬剤もオリジナルで、北海道大学電子科学研究所准教授の髙野勇太氏とともに開発した。