なぜ声で心の状態がわかるのか

 それにしても、なぜ声で心の状態がわかるのか。鍵を握るのは、声帯の不随意反応だという。

 「声帯はもともと副交感神経である反回神経の支配を受けているが、脳がストレスを感じると交感神経の方が優位になる。すると声帯の筋肉が収縮して固くなり、周波数が高くなってしまう。緊張したときに声が上ずったり、びっくりしたときに声が裏返ったりするのは、このため。このような声帯の反応は自分の意思ではコントロールできない不随意反応。つまり、声は“嘘”をつけない。ミモシスでは、この不随意反応と普段意識的に言葉を発しているときの随意反応とを組み合わせ、周波数の変動パターンなどを分析することで心の状態を測定している」(徳野特任教授)。

緊張すると自然と声が上ずったり、心臓がドキドキしたりする。これは脳が受けたストレスが反回神経(副交感神経系)を伝わって声帯や心臓に伝わるから。ストレス下では声帯の筋肉がこわばり、周波数が高くなる。これは自分の意思では制御できない不随意反応だ。一方、リラックスしているとき、声帯は緩み、周波数は自ずと低くなる。ミモシスでは、これらの反応を通して心の元気さを分析する(出所:徳野特任教授)
緊張すると自然と声が上ずったり、心臓がドキドキしたりする。これは脳が受けたストレスが反回神経(副交感神経系)を伝わって声帯や心臓に伝わるから。ストレス下では声帯の筋肉がこわばり、周波数が高くなる。これは自分の意思では制御できない不随意反応だ。一方、リラックスしているとき、声帯は緩み、周波数は自ずと低くなる。ミモシスでは、これらの反応を通して心の元気さを分析する(出所:徳野特任教授)
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 徳野特任教授はミモシスの精度を医学的に検証している。例えば、心の活量値を調べることで、うつ病患者と健康な人を高精度に判別することができたという。うつ病患者では健康な人に比べ、心の活量値が明らかに低くなるからだ。

 また、自衛隊のレンジャー訓練参加者を対象にした精度検証も行った。ミモシスの元気圧は、訓練前より訓練中に低くなり、訓練後は再び上がった。つまり、訓練中は訓練前よりストレスが多くなり、訓練が終わった後はまたストレスが少なくなっていた。これは同時に行った心理テストと血液バイオマーカー(BDNF値)検査の結果と同じ傾向だった。ミモシスでも従来の検査手法と同様の結果が得られたわけだ。

 徳野特任教授は、防衛医科大学校などで自衛官のストレス研究に携わり、また陸上自衛隊の医官としてイラクや東日本大震災などの復興支援にも当たってきた。そのような経験を積む中で必要性を痛感したのが、ストレスや心の状態を測定できる客観的な指標だったという。

 「ストレスや抑うつ状態を調べるには自己記入式のアンケートを用いるのが一般的だが、これはあくまで主観的な指標。本人がストレスを過小評価していたり、自覚していなかったりする『報告バイアス』があると、正しい結果は得られない。とりわけ厳しい訓練で鍛えられてきた自衛官の場合、ストレスを抱えていても弱音を吐かず、ぎりぎりまで頑張ってしまう。そして、突然バタンとつぶれてしまうことも珍しくない。もっと早く心の不調を捉えて手を打つには、主観的な指標ではなく、ストレスの度合いを定量化できる客観的な指標が不可欠と考えた」