“ボイスバイオマーカー”として国際的にも注目、一方で課題も…

 そこで徳野特任教授は血液や唾液に含まれる物質をバイオマーカーにしてストレス度を測定する方法を模索していたが、コストや反応性などの問題から断念。そんなとき、たまたま音声感情認識技術の開発に携わっていた東京大学大学院工学系研究科の光吉俊二特任准教授と出会い、共同研究を行うことになったという。

 「声は血圧や体温、血液などと同じバイオマーカーの一つとして非常に有望だと思った。しかも、話してもらうだけなので採取も簡単。注射で採血するような痛みもない。最近は“ボイスバイオマーカー”と呼ばれ、国際的にも注目されている。我々が共同研究を始めた10年ほど前は論文検索をしても1、2件ほどしかヒットしなかったが、現在は年間1000件程度は出てくる」

 ただし、バイオマーカーとして認知されるようになるにつれ、課題も出てきたという。プライバシー保護という壁だ。「ミモシスが登場した当初は、携帯電話で話す声をそのまま自動録音して分析していたが、プライバシー保護の観点からそれができなくなり、現在のような定型文を読んでもらう仕様になった」と徳野特任教授。声は個人情報の一つであり、健康データでもある。プライバシー保護やデータ管理の問題は、ミモシスの技術が今後いろいろな場面で応用されていく上で避けては通れない課題になるという。

 現在、ミモシスは企業や自治体などが運営するメンタルヘルス領域のサービスにも活用されている。PST代表取締役の大塚寛氏はこう語る。

 「ミモシスは車にたとえると“エンジン”に相当する。我々はエンジンを開発してメーカーに供給し、メーカーがこれを搭載した独自の“車”を造り上げる。社会的な需要やインフラに応じて様々な車の形態が考えられ、用途に応じてエンジンが活用される。将来的にはロボットへの搭載も考えている」

PST代表取締役の大塚寛氏(写真提供:PST)
PST代表取締役の大塚寛氏(写真提供:PST)
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 ミモシス活用の第1号となったのは、日立システムズが2017年から企業向けに始めた「音声こころ分析サービス」だ。スマホなどから声を録音すると、音声データが日立システムズのクラウド上で分析され、スマホやパソコンの画面に結果が表示される。

 結果は本人の同意の下、産業医なども閲覧できる仕組み。心の活量値が低下してメンタルヘルスに問題ありと判断されれば、早期に産業医が本人との面談を行い、うつ病などへの進展を防ぐという。

 2015年から社員50人以上の事業所にストレスチェックが義務化され、企業には社員のメンタルヘルス対策が求められるようになった。声による分析は、心の不調を早期に発見し、悪化を防ぐツールとして役立つ。

 ミモシスはこの他、神奈川県が県民の健康増進を促す目的で開発した公式アプリ「マイME-BYOカルテ」や、スマホにプリインストールされたヘルスケアサービスアプリなどにも導入されている。