2017年に起こったC型肝炎治療薬「ハーボニー」の偽造品流通事件が一つの契機となり、医薬品の正確なトレーサビリティへのニーズが高まっている。そうした中、医薬品サプライチェーン全体において「RFID」を活用する仕組みが動き始めた。

 RFIDとは、ID情報を埋め込んだ微細なチップを用い、無線通信で情報の読み込みや書き換えによってさまざまなモノを識別・管理するシステム。医薬品サプライチェーンにおいてこの仕組みが整えば、偽薬防止のほか、在庫管理や入出庫関連業務の省力化にもつながる。

 共同開発を進めているのは、画像検査技術を持つマイクロ・テクニカと自動認識技術によるソリューションを提供するサトーヘルスケア、そして薬の資材メーカーである大成化工、クオリカプス、藤森工業の5社だ。2020年の販売開始を目指している。

 医療機器の分野では、一部でRFIDを採用していく動きが出ているものの、ヘルスケアの市場でRFIDの活用はまだあまり進んでいない。「カンフル剤になればと、今年7月開催の『第21回 インターフェックスジャパン』に参考出品し、上々の反響を得た。RFID自体はユニクロなどのアパレル業界でも活用が進み、一般への認知も高まっている。医薬品のサプライチェーンを変えるには今がチャンス」と、サトーヘルスケアPSシステムマネジメントグループグループ長の須賀広道氏は意気込む。

サトーヘルスケアの須賀広道氏(写真:新関 雅士)

一括読み取りで入出庫管理、投薬時の「3点照合」も

 5社が開発した仕組みの概要は下図のようになる。

サプライチェーンにおける医薬品情報の流れ。RFIDにより在庫管理など関連業務の省力化と正確なトレーサビリティを実現する(出所:サトーホールディングス)

 まずサプライチェーン上流の資材メーカーは、医薬品のカプセルやボトル自体にRFIDのタグを埋め込む。さらに製薬工場では、それらを梱包する個箱や外箱にもタグを貼り、流通の過程で必要な情報が上書きされていく仕組みだ。

ボトル本体と個装箱、さらに外箱の段ボールにもRFIDのタグを搭載、流通の過程で必要情報が上書きされていく(出所:サトーホールディングス)

 製薬工場からの出荷の際や、物流センターや卸での入出庫・在庫管理に関しては、RFIDによって作業は大幅に短縮・軽減される。従来は、バーコードラベルを1枚1枚読み取っていたため人手と時間を要していた。これに対しRFIDの場合は、タグが貼られた複数の外箱をゲートリーダーに通すことで、一括して読み取ることができる。数十分かかった作業がわずか数秒で済むようになるのだ。

 サプライチェーンの川下に当たる病院や薬局においても、医薬品の個箱やRFIDボトルの読み取り作業が容易になり、人手をかけずに正確で効率的な在庫管理や処方が可能になる。また、RFIDタグに患者情報を入れておけば、医師や看護師はいちいちデータベースにアクセスしなくても情報を確認できる。

 病院では、患者の点滴交換や投薬の際に、いかに誤投与を防ぐかに腐心しているが、RFIDを使えば患者・薬剤・投与者の「3点照合」が無線通信で瞬時に実現。患者と輸液が医師のオーダーと違っている場合、アラートを表示するなどして注意を促す。

病院における患者・薬剤・投与者の3点照合もRFIDラベルで瞬時に可能になり、薬の誤投与を防げる(出所:サトーホールディングス)

 「川上から川下までサプライチェーン全体を視野に入れたシステムだが、RFIDタグのメモリ量は川下までデータを繋いでいけるほど大きくはない。そこで製造番号、使用期限、シリアル番号などの基本情報以外の、例えば投薬管理の情報などはクラウドにデータを上げていく方式を考えている」とマイクロ・テクニカ執行役員第2事業部長の柴崎誠氏は語る。

電子タグ付きカプセル錠で患者の服用を確認

 このシステムでは、薬剤師が遠隔で患者の服薬状況を管理することも可能だ。患者が服薬のため薬のボトルを開封すると、それを検知して医師や薬剤師に情報を送る仕掛けだ。

 また、パートナー企業のクオリカプスでは、米etectRxが提案・発明し現在FDA(米国食品医薬品局)に認可申請中の、個々のカプセル錠剤自体に電子タグを付けたハードカプセルを導入している。同カプセルは、服用すると胃液に反応して発電し、スマートフォンなどに通知を送るもの。データは記録され、患者の家族も確かに本人が薬を飲んだかどうか、飲み忘れをチェックできる。クラウド上で薬剤師が服薬状況を確認することも可能だ。

カプセルに内蔵したセンサーが胃液に反応してスマートフォンなどに通知。正しい薬を正しく服用したという履歴管理を、患者やその家族、医療従事者側とも共有できる(出所:サトーホールディングス)

 このようにして医師や薬剤師、介護者などと薬の使用者との間で医療情報の共有・管理できる環境を構築する。それが5社が目指す最終的なコンセプトイメージだ。

協働する契機となった偽造防止システムの開発

 この5社による共同開発がスタートしたきっかけについて、マイクロ・テクニカの柴崎氏は「サトーヘルスケアとの共同開発で偽造防止マーキングシステム『KiiSpot(キースポット)』を昨年9月にリリースした。その延長上で今回のプロジェクトがスタートした」と話す。

マイクロ・テクニカの柴崎誠氏(写真:新関 雅士)

 キースポットは暗号アルゴリズムによってバーコードに偽造防止マークを印字することで、誰でも確実に真贋判定ができるシステムだ。こうした偽造防止対策の商品は、特に偽造薬が多く流通する海外でニーズが高いという。

 「外箱に貼るラベルに印字するキースポットは、その箱を開封する卸までを対象とした偽造防止対策。薬一品一品には貼れない。今回はRFIDを用い、その先の薬局や薬の使用者、介護者を視野に入れた仕組みをつくろうと考えた」とサトーヘルスケアの須賀氏。

 ボトル1つ1つ、PTP包装シート1枚1枚にタグを付けていくためには、資材メーカーも入って共同開発していく必要がある。こうして5社の取り組みが始まったのだ。

実証実験で資材性能や読み取り性能を検証

 仕組みの実現に向けては課題もある。RFIDは金属や水分の影響を受けやすく、情報の読み込みに障害が出たり、通信距離が短くなる場合がある。日本では錠剤やカプセルのほとんどがアルミ素材のPTP包装シートでくるまれている。タグをアルミのシートから浮かせて貼付するなど、対策を講じていく必要がある。

 「最も注意すべきは、タグの情報を書き換えることで偽造に悪用される恐れがあること。薬のシリアル番号、使用期限を入れたらすぐにロックして書き換えできないようにし、それ以外の情報はデータベースで管理するなど、細部の仕様を詰めていく」とサトーヘルスケアの須賀氏。

 またマイクロ・テクニカの柴崎氏は「個人情報に関わる医療情報をやりとりするので、クラウドの性能やセキュリティに関しても考える必要がある」と付け加える。5社は現在、実証実験を行っている。資材の性能や、通信距離と読み取り性能の確認など、抽出された課題の解決に取り組んでおり、年内に技術の確立を目指す。

RFIDタグを内蔵したボトル。手前左のボトル正面に見えるのが、RFIDタグ(写真:新関雅士)

 5Gによるネットワークシステムの大容量化により「遠隔診療」や「オンライン服薬指導」の環境は大きく進展する。今後、医薬品を患者のもとに正しく届ける仕組みや、薬剤師が薬の使用者の服薬状況を把握・管理できる仕組みへの期待は大きい。医薬品サプライチェーンにRFIDを活用するこの仕組みは、医薬品の正確なトレーサビリティを担保するだけではなく、業務の省力化、さらに安全・安心な医療サービス環境の実現にも大きく貢献しそうだ。

(タイトル部のImage:サトーホールディングス)