2019年7月、福島県田村市にたむら市民病院が誕生した。32床と規模は決して大きくないが、人工透析や救急の患者を受け入れ、地域医療の中核を担っている。病床数が多い地域では病院の新設を認めないという県の医療計画と、医師の確保という2つの難題を民間病院との連携で乗り越えてのオープンだ。新築移転計画も動き出し、次なる展開も見えてきている。
「5町村が合併して2005年に田村市が誕生した当初から、『総合病院が市内にあったらいい』という声はあった。市も誘致を行ってきたが、県の医療計画がネックになっていたうえ、医師をはじめとするスタッフの確保、さらに運営コストの問題もあって難航していた」。田村市保健福祉部・保健課課長の渡辺春信氏は、市立病院の開院まで十数年かかった経緯をこう説明する。
田村市は福島県東部に位置し人口は約3万5000人。東北新幹線の駅がある郡山市から、車で30分ほどかかる場所だ。2019年6月までは、市内の病院は32床のベッドを持つ医療法人真仁会大方病院のみ。ほかに入院設備のある診療所などがいくつかあるが、医療提供体制は十分とはいえず、患者の市外への流出はもちろん、人口減少の要因にもなっていた。
一方で郡山市には、高度先進医療やがん治療などで全国的に有名な民間病院をはじめ、大病院が軒を連ねている。ここ郡山市と田村市が、福島県が定める医療計画で同じ「県中区域」(地図中の濃い緑色の地区)とされたきたことが、田村市において市立病院の開院に時間がかかった最大の要因だった。
市内唯一の民間病院が存続の危機に
第7次福島県医療計画(2018~2023年度)によれば、3市6町3村で構成される県中区域は、人口などから弾き出した一般および長期療養向けの基準病床数5207床に対し、既に5744床のベッドがあった。そのため原則として病院を新設したり病床を増やしたりすることはできない。同じ区域内の病院から病床を譲り受けるなどの方法を採らないと、たとえお金があっても自前の市立病院を開設することは難しいのだ。
ところが数年前、市内でただ一つの病院である医療法人真仁会大方病院の院長が、急に亡くなるという出来事があった。真仁会の理事長も高齢のため経営を続けていく意欲をなくし、市へ病院の譲渡話が持ち込まれたのだ。大方病院は救急医療にも協力しており、専門的な検査・治療が必要かを判断し、必要な場合は郡山市などの大病院に転送していた。救急車による市外への搬送には場所によっては1時間かかり、大方病院のような機能を担う病院がなくなると、手遅れになる患者も出かねない。
大方病院は23台の装置を抱え、人工透析も手掛けていた。その維持のためにも市が支援してでも存続を図る必要があった。「市域が広く、郡山への通院が1日がかりになる地域もある。地域包括ケアシステムを構築するためにも、それを支える病院が必要」(渡辺氏)と、市が自前の病院を持つことには様々なメリットが期待された。
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