運動不足による経済損失は675億米ドルにも

 実は、世界の死亡原因の7割を占めるのは、COVID-19 をはじめとする感染症ではなく、心血管疾患・がん・糖尿病・慢性肺疾患などの非感染性疾患(NCDs)です。身体活動を推奨することで、これらを減らすことができるのです。そのため、身体活動の推進は医療費の削減につながり、経済への大きな貢献も見込めます。

補足情報:
オーストラリア・シドニー大学のDing Ding氏らが142カ国のデータを活用して推計した報告では、2013年の身体不活動による経済損失額は、保守的解析で少なく見積もっても、直接的な医療費で538億米ドル(約5.6兆円)、生産性の損失による損失額が137億米ドル(約1.4兆円)、合計675億米ドル(約7兆円)にも上る。特に高所得国では、身体不活動が医療費に与える影響が8割超になると報告されている(Lancet,2016)。

 経済への影響だけではありません。歩いたり、自転車による移動を増やすことによって化石燃料の使用を抑制できたり、街の環境改善にもつながります。身体活動を推進し肥満を回避することで、世界的に食糧不足が緩和され、飢餓の削減にもつながるでしょう。こうした様々な観点から、身体活動は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)において、実に13項目に貢献することも分かっています。

 にもかかわらず、ライフスタイルの近代化によって、こまめに体を動かさない、座ってPCやスマートフォンを眺めてばかりという人が増加。活動量がWHOの推奨時間に達していない身体“不”活動が今、大きな健康課題となっています。

 2011~2016年のWHOの調査結果を見ても、この15年間で身体不活動の水準は、残念ながら改善できていません。成人では3割弱、若者では実に8割の人が身体不活動になっています。多くの国では、男女でも差があり、男性よりも女性の活動量が少ないことも指摘されています。

(出所:講演時のスライド)

 国別に見ると最も深刻なのは、高所得なアジア太平洋地域・西欧諸国、ラテンアメリカ、中央アジア・中東・北アフリカ、東アジアなど。日本を含む高所得国を中心に、世界中の国々がこの問題を抱えています。運動不足が世界的に大流行している“パンデミック状態”だと言っていいでしょう。