ママおすすめ、家族全員で楽しめる嚥下障害対応フード
ここからはスナック都ろ美のママ、加藤さんと永峰さんが勧める「インクルーシブフード」の例を2点、紹介しよう。
■「にぎらな寿司」
加藤さんと永峰さんがまず推薦したのは、この「にぎらな寿司」。医療・介護・福祉・保育事業を展開するさわらびグループが開発したレシピで、高齢者が好む寿司を、嚥下障害がある人でも食べられるようにしたもの。具材や酢飯、薬味などの構成要素が軟らかいムース状になっており、スプーンに盛り付けられている。まさに名前の通りのにぎらな寿司である。
食べる人の健康状態に合わせて、具材の種類や量、味付け、軟らかさ、あるいは加熱・非加熱などを選択することが可能だという。スプーンに盛り付けているので箸が持ちにくい人でも食べやすいこともポイントだ。
最大のポイントは「分子調理」のメソッドを適用したところにある。分子調理とは、食材や調理を物性レベルから捉える方法論。味や調理に科学的にアプローチすることで、味の再現性を高められるなど様々な効果が見込める。
口に入れるとまさに寿司の味。加藤さんらは先述した特特祭でのデモで試食した。「食感は従来の寿司とは異なるが、味は寿司そのもの。(嚥下障害がある)娘が6貫も食べていた。私自身も美味しく食べた。家族全員で同じものが食べられるというのは、とても重要」(加藤さん)。
さわらびグループのCEO/DEOを務める山本左近氏は、「食は人生の基本。ご高齢になり嚥下機能が低下した方々にも、美味しいものを食べていただきたい。このような思いが、にぎらな寿司の開発を始めた出発点だった」と語る。また、「健常者の方々でも普通に美味しいと思っていただけるものにすることについては、特にこだわった」(山本氏)という。
同グループではにぎらな寿司を「記念日用介護食」と位置づけ、主に同グループが運営する介護施設などで、誕生日などの特別メニューとして提供している。今後はにぎらな寿司で得たノウハウを、グループ内で提供する日常的な献立や、パスタやハンバーガーなどに応用する可能性を探っていくという。
■カムリエの「むせないケーキ」
次に加藤さんと永峰さんが推薦したのは、先述したカムリエの「むせないケーキ」。パティシエの辻口博啓氏が歯科医療の専門家と共に開発したこのケーキは、クリームやスポンジなどケーキの主要な構成要素に工夫を凝らし、口の中で適度なまとまり感やとろみが形成されるようにした。これにより、食べやすさ、飲み込みやすさを高めたという。
先のにぎらな寿司と同様、家族で同じものを楽しめることがポイントだ。永峰さんは「嚥下障害を持つ子どもの親は、子どもだけに嚥下食を食べさせて、自分たちは普通の食を食べることについて、罪悪感を抱く傾向がある。カムリエのケーキなら、子どもと一緒にスイーツタイムを体験できる」と感想を述べる。
カムリエの店長でパティシエの志水香代氏は、「お口の機能が低下している人でも、やはりお祝いのときには家族や親しい人と一緒に同じスイーツが食べたいと思われるはず。そのような楽しいひとときに利用していただければ」と語る。
カムリエは歯科医療メーカーのジーシーがプロデュースしている。なおカムリエでは嚥下機能に配慮した食事の料理教室や食育セミナーなども提供している。