直腸がん手術を支援する国産ロボットの実用化に向けた動きが進んでいる。国立がん研究センター発のスタートアップ、A-Tractionが開発してきたものだ。同社は、2021年3月に朝日インテックに買収され、「M&A」というスタートアップとしての一つの出口に到達した。同年7月には、朝日サージカルロボティクスに社名変更。開発中の手術支援ロボットは現在、2022年初頭の医療機器承認に向けて準備を進めているという。

このA-Tractionを立ち上げたのは、外科医である国立がん研究センター東病院 大腸外科長/手術機器開発室長の伊藤雅昭氏。同氏は、スタートアップの立ち上げからM&Aに至るまで何をどう見てきたのか。その経緯と全貌を、「第5回メディカルデバイスイノベーション in 柏の葉」(2021年10月26日にオンライン開催)で語った。

国立がん研究センター東病院 大腸外科長/手術機器開発室長の伊藤雅昭氏(写真:オンライン画面のキャプチャー、以下同)
国立がん研究センター東病院 大腸外科長/手術機器開発室長の伊藤雅昭氏(写真:オンライン画面のキャプチャー、以下同)
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 国立がん研究センター東病院(NCCE)は、8年前(2013年)から手術機器開発に関連した取り組みをスタート。医療機器の開発を始めるにあたり、伊藤氏を中心とするNCCEはまず、千葉県と千葉県産業振興センター、千葉大学との協働で地域連携コンソーシアム「C-spuare」を設立。ここで、医療者のニーズと地域中小企業のシーズをマッチングする「出会いの場の創出」に取り組んだ。

 この取り組みからは、上市までに至ったいくつかの開発機器が誕生。伊藤氏の専門分野である大腸外科のニーズに応えた機器としては、大腸がん術後の縫合不全軽減を目的とした腸管内減圧チューブ「WING DRAIN」を開発した。このような製品の開発に当たり伊藤氏は、病院が関わるメリットとして「臨床試験ができる」といった点を挙げる。一方で、開発に携わっていくなかで「もっと臨床現場を変えるインパクトがほしい」「手術現場の潜在的ニーズを解決したい」といった感情が芽生えたそうだ。

 2014年ごろに伊藤氏が注目したのが、da Vinciなどに代表される「手術支援ロボット」である。そこで、手術支援ロボットを利用した内視鏡手術と従来の人による標準的な内視鏡手術を比較した場合のデータに着目。ロボットが優れているのは「出血量」と「開腹移行」で、逆に劣っているのは「手術時間」と「コスト」であることが分かった。また、「術後早期合併用」「在院日数」「QOL」「長期生存率」などはあまり違いがなかったことから、「ロボットだからといって何でも優位になるわけではない」という点を「医学的に重要な側面だ」と見た。

 この点を踏まえて伊藤氏は、ロボットによる腹腔鏡手術の課題解決を思案。これまでは「術者」「スコピスト」「助手」という3人の外科医が必要だったことから、「スコピストと助手の役割を1台のロボットがまかない、外科医1人で手術できるような環境を作る」というコンセプトを打ち出した。そして2014年9月、このコンセプトに基づく手術ロボットの原型を完成させた。

腹腔鏡手術において「スコピストと助手の役割を1台のロボットがまかない、外科医1人で手術できるような環境を作る」というコンセプトのイメージ
腹腔鏡手術において「スコピストと助手の役割を1台のロボットがまかない、外科医1人で手術できるような環境を作る」というコンセプトのイメージ
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