藤田医科大学(愛知県豊明市)がロボットと医療・介護の融合をテーマに研究開発を進めている。大学病院内と、近接する団地の一画に実証施設となる「ロボティックスマートホーム」を設け、実際に高齢者や医療や介護の手助けが必要な方に使ってもらう。「真に役立つ製品作り」に欠かせない工程でありながら、実はこれまでおろそかにされがちだった部分でもある。研究の中核を担う田辺茂雄准教授に話を聞いた。
「とよちゃん」「はい」「電気をつけて」「OK、電気をつけるね」
トヨタ自動車の開発した生活支援ロボット「HSR(Human Support Robot)」と利用者の会話だ。藤田医科大学病院内にある実証施設内でのひとコマである。
ここでは、愛知県立大学との共同研究を通してHSRをカスタマイズし、より親しみの持てるロボットに“育てて”いる。名前は「とよちゃん」。トヨタ自動車と豊明市の両方が名前の由来だという。
筆者もとよちゃんに話しかけてみた。名前を呼ぶと、彼(彼女?)はこちらを向き、少し見上げるようなかっこうだ。思わず「うん、可愛らしいな」と気持ちが和む。
「ブラインドを開けて」
とお願いすると、
「OK、ブラインドを開けるね」
と答えてくれる。このとき、ブラインドのある方向に顔を向けるのがニクイ。しばらくするとブラインドが自動で開く。
藤田医科大学 ロボティックスマートホーム・活動支援機器研究実証副センター長の田辺茂雄准教授が解説する。
「人型のロボットがブラインドのある場所まで歩いて行き、アームで紐を引っ張るなどしてブラインドを開けるのであればわかりやすいのですが、そうした機能はロボットにとって非常に難易度が高く、また何から何までロボットハンドで行うのは合理的ではありません。とよちゃんは、家の中のあらゆる機器がIoTでつながっているので、電気をつけたり、ブラインドを開けたり、テレビをつけたりなどの作業をお願いすることができる。ただ、ブラインドがひとりでに開くとこれはこれでわかりにくい。だから対象物の方向に顔を向け、『今からブラインドが開きますよ』ということをそれとなく知らせるわけです」(以下「」内はすべて田辺氏)
実際に高齢者に使ってもらい、その意見をフィードバックしているからこその細かな工夫だ。
とよちゃんにはロボットハンドがついているので、モノを掴むことができる。飲み終わったペットボトルなどをゴミ箱まで持っていって捨てるといった“雑用”も愚痴ひとつこぼさずにこなしてくれる。
「とよちゃんのように雑用全般をこなすロボット。ベッドやトイレに移動・移乗するためのロボット。またテレビ型の情報支援ロボット。これらを組み合わせることによって『高齢者の安心快適な在宅生活を可能にする』。これがロボティックスマートホームのコンセプトです」