「介護現場が病院化している」──遠隔医療相談の仕組みを提供するドクターメイトの青柳直樹代表はいう。研修医だったころ、この問題に気づいたらしいのだが「介護の病院化」とはいったいどういうことなのか。解決策を模索し、ビジネス立ち上げに至った経緯をみながら、問題意識の根幹に迫る。

ドクターメイトの青柳直樹代表(提供:ドクターメイト)

 介護施設に対し、24時間365日態勢で遠隔での医療相談を提供するドクターメイト。システムを発想したきっかけは介護現場の医療依存度の高まりにあった──。

 高齢化が進むにつれて、介護施設の定員数も増加している。厚労省の調査によると、特別養護老人ホーム(特養)の定員は10年前は約45万だったものが、現在は約62万にまで増えた。民間の介護付き有料老人ホームの定員も同様に増加しており、10年前は約23万だったが現在は約45万だ。つまり、年を追うごとに老人施設の利用者は増えているわけだ。

 「ただ、今も昔も老人施設と連携している医師の95%が非常勤なんですよ」

 そう語るのは介護施設に対して遠隔での医療相談を請け負うドクターメイト代表の青柳直樹氏だ。自らも皮膚科の医師として活動している。

 「研修医時代に千葉県の中核病院に勤務していたのですが、介護施設から外来でいらっしゃる高齢者のなかには『よくこんなに重症化するまで放っておいたものだな』と言いたくなるような症状の方がたくさんいらっしゃることに気づいたんです。介護施設にもスタッフさんが多くいるはず。それまでは漠然と医療的なケアも整っていると思っていたのですが、なにか変だな、もしかしたら介護施設と医療機関の連携がうまくいっていないのでは? と考えるようになったのです」(以下「」内は全て青柳氏)

 以前は要介護認定を受けていれば入居資格が認められていた特養だが、2015年4月から要介護3以上でなければ原則的に入居できなくなった。つまり現在の特養は基本的に要介護3以上の方が住んでいるということになる。必然的に入居者の平均年齢も高くなり、その分有病率も上がる。

 高齢で高有病率──これが施設介護の要である特養の現在の姿だ。

 「また、国の政策が遠因して施設の中が重病化しているということも実は言えるのです」

入院日数の減少が介護施設に影響

 増え続ける医療費を抑えるため、国は入院日数を減らすように制度を設計している。ごく大雑把に説明すると、14日までの入院であれば高い診療報酬がつくが、それ以上になると段階的に引き下げられ、30日を越えると加算がなくなる。おかげで病院側には高い報酬が取れるうちに退院させようとする力が働く。

ドクターメイトのオフィスにて(撮影:末並 俊司)

 実際、入院日数は年々減少の傾向だ。厚労省の調査では平均の在院日数は10年前が約33日、ところが現在は30日を切って約27日となっている。

 「今の病院は病気を完全に治療してからの退院という形ではなく、ある程度のレベルまで治療が終わったら、あとは介護施設にお願いをしているという部分もある」

 医療機関から退院した人のその後の行き先も気になる。8割が自宅に戻っているのだが、この割合は年々減少し、一方で特養やその他の老人施設へ入居するケースが増えているのだ。

 「様々な理由で介護施設の入居者さんが重病化し、これに対応するために介護施設そのものの医療依存度が高まっている。つまり『介護現場が病院化』しているのです」

介護と医療の壁は厚い

 介護施設に医療が必要な方が増えるのは仕方ない。ところが対応する医療従事者が必ずしも増えているわけではないという現実がある。

 「厚労省の統計によると、特養の場合、常勤の医師がいる施設は全体の1.1%。95.3%が非常勤の医師なのです。さらにその非常勤医師が介護施設で勤務する時間は1週間のうちに平均で3.6時間ほどです。これでは十分な医療を提供することはできない」

 このような問題を解消するため、青柳氏が考えたのが「遠隔での医療相談」だった。

 「介護施設に対し、離れた場所にいる我々のような医師や看護師が現場の医療相談に乗る。思いついたらいても立ってもいられなくなり、大学病院に勤務しながら、2017年の12月に、病院の真ん前にある本屋さんの2階の部屋を間借りするかっこうで起業しました」

 現在の法律では、遠隔での治療には様々な制約がある。実際に会ったことのない患者に対して、電話やチャットで医師が直接意見を伝えることはできない。ただ、施設の職員などに対しての医療相談であれば可能だ。

サービス内容のイメージ。ドクターメイトがハブとなって介護現場の医療的な負荷を軽減させる(提供:ドクターメイト)

現場本位のサービス

 以前、筆者が地方都市の特養を取材していたときにこんなことがあった。

 施設のベテラン職員が80代後半の男性の着替えを手伝っているときのことだ。靴下を脱がせると、足の薬指の爪がない。職員は一瞬「あれ」という表情をしたが、慌てず靴下をひっくり返した。すると剥がれた爪がポロリと転がり落ちてきたのだ。

 実のところ、こうしたことは日常茶飯事だ。高齢になるとかぶれやカビの一種であるカンジダ症のために極めて爪がもろくなる。爪の剥がれた当人は痛がりもせずケロリとしている。とはいえ現象としては「生爪が剥がれた」のだから事件だ。できれば専門医にみせたい。ただ、病院に連れて行くほどでもないような気がする──。

 このような場合にドクターメイトのサービスがあればありがたい。

 「電話やチャットで現場の職員さんに症状の内容をなるべく詳しく説明していただき、それに対して助言を行います。もちろん、通院が必要であればそのように伝え、医療機関側につなぐこともできます。また相談内容とその答えは詳細なレポートに起こしてお渡しします。このようなデータを保存しておくことで、皆さんの健康管理の助けにもなるし、疾患と対処の事例が増えることで後々の事故防止にもつながります」

夜は手薄になりがち

 特養や民間の介護付き有料老人ホームは入居者3人に対し、介護・看護職員を1以上配置するよう法律で規定されている。ただしこれは24時間を均(なら)して考えた場合の数字だ。夜間は20の入居者に対して1人以上の職員を配置すればよい。

 「夜間は特に、目を離したすきに歩き回って転倒するなどの事故が起こりがちです。そのたびに病院に連れて行っていたのでは仕事になりません。逆に『痛がっていないからほっといていいや』というのもだめ。そのようなケースでも我々のサービスなら24時間対応ですので、気兼ねなく連絡をいただければ対応します」

医療相談にチャット機能で応える青柳氏(撮影:末並 俊司)

 言葉で伝わりにくい場合は、タブレットやスマホなどで映像・画像を送ることもできる。そうした情報を手がかりに、医師や看護師が的確なアドバイスを送るわけだ。

 「現在80の施設にご契約頂いています。料金は利用者おひとりに対して680円からです。つまり50床の施設であれば680円×50からということです。導入初期にはスタッフひとりを張り付けて、システムの導入から日常のオペレーションに組み込まれるまでお手伝いします」

 現在、皮膚科、内科医、精神科の専門医に加え、20人前後の看護師がシフトを組んで、24時間365日の医療相談をこなしているという。

 いつでも手軽に医療相談ができることが現場職員や入居者本人の不安解消に役立っているのはもとより、システム導入することで、通院の回数も減っているという。

 「ちょっとした打ち身でも、以前は病院に連れて行っていた。そのような施設でも、我々のアドバイスを受けることで通院せずに済むというケースが増えています。入居者さんをひとり病院に連れて行くには最低でも1~2人のスタッフの手がかかります。前準備から病院での待ち時間、施設に戻ってからの処置を考えると半日仕事。その分現場が手薄になるし、費用もかさむ。これをドクターメイトのシステムに代替させることで、マンパワーと費用の両面を削減することができる」

導入実績(提供:ドクターメイト)

 導入例の中には、通院回数を皮膚科で70%、精神科で53%、それぞれ削減することができたとする事業所もあるという。

 団塊の世代が後期高齢者となる2025年はもうすぐそこだ。青柳氏の言う「介護施設の病院化」は今後もしばらく続きそうだ。介護する側、される側の安心を担保する仕組みはあればあるだけありがたい。

(タイトル部のImage:patpitchaya -stock.adobe.com)