「ヒューマン・セントリック」(人間主体)という発想はここ数年、ICT(情報通信技術)分野を中心に、ものやサービスなどを開発する際によく掲げられている。その発想を工場の生産現場に持ち込んだらどうなるのか──1985年の設立時からこうした取り組みを続けているのが、京都市南区にある「オムロン京都太陽」だ。

桂川と鴨川の間に位置する、オムロン京都太陽の3階建ての工場(撮影:Beyond Health)
桂川と鴨川の間に位置する、オムロン京都太陽の3階建ての工場(撮影:Beyond Health)
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 同社は、工場向けの制御機器や電子部品などを扱うオムロングループの一社として、ソケットやセンサー、電源などの生産を手掛ける。QCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)を追求する点においては一般の工場と変わらないが、障害者の雇用を目的とした「特例子会社」であり、生産従事者186人のうち6割以上に当たる116人が障害者となっている。

 同社の最大の特徴として、オムロン京都太陽 代表取締役社長の三輪建夫氏は「“業務に人を付ける”のではなく “人に業務をつける”」点を挙げる。通常の工場であれば、まず必要とされる業務があり、それを実行できる人にその業務を担当させる。ところが、同社の工場では各作業者の特性を見極め、苦手なことやできないことを治具や装置、仕組みなどによって補完する。

オムロン京都太陽 代表取締役社長の三輪建夫氏(撮影:Beyond Health)
オムロン京都太陽 代表取締役社長の三輪建夫氏(撮影:Beyond Health)
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 具体的には、「できること」と「できないこと」を明確化し、できないことについてはどうすればできるようになるかを考えることから始めるという。例えば、付属品の袋詰めの作業に関して、片手に麻痺がある作業者の場合はビニル袋を取って開けるといった細かな動作は難しい。そこで、ビニル袋を一枚取って開けるという作業の部分は自動化し、指示書に従って部品をピックアップして袋に投入するという作業を作業者が担う。

袋を一枚取って開けるという作業を自動化することで、麻痺がある人も付属品の袋詰め作業が担当可能となる(写真:オムロン京都太陽)
袋を一枚取って開けるという作業を自動化することで、麻痺がある人も付属品の袋詰め作業が担当可能となる(写真:オムロン京都太陽)
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 その結果、一般的な工場の半自動機は画一的な操作性であるのに対して、同社の半自動機や治具は各個人に最適化した操作性を備えるものが用意され、その日の作業者によって取り替えている。また、こうしたサポート用の機器は、本人などのアイデアを元に同社工場内の工作室で自作している。自作することでアイデアの実現やメンテナンス、改善といったサイクルが早められるとする。

サポート用の機器は工場内の工作室で開発する(写真:オムロン京都太陽)
サポート用の機器は工場内の工作室で開発する(写真:オムロン京都太陽)
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 障害者への対応が、本人だけでなく、健常者にとっても有益な「改善」につながる例も少なくない。一例として挙げるのが、箱詰め・ラベル貼りの作業に使う、組み立て前の段ボールを1枚ずつ手元に差し出すための送り出し機だ。同作業では、作業スペースを確保するために組み立て前の段ボールを作業台の奥に配置する。車椅子の作業者は、この“段ボールを立ち上がって取る”という動作ができないため、開発した。健常者は無意識のうちに立ち上がって手を伸ばすことができるが、送り出し機があれば立ち上がる動作が不要になり、作業効率が上がる。

 つまり、無意識のうちにいろいろな作業ができてしまう健常者は、どの作業に負担があるのか気付きにくいという課題がある、とも言える。障害者に対応することで、誰にとっても働きやすいユニバーサルデザインになるというわけだ。

箱詰め・ラベル貼り作業で使われる、段ボールの送り出し機。組み立て前の段ボールは作業台の奥(写真では手前側)に置かれているが、送り出し機があるのでいちいち立ち上がって取る必要がない(撮影:Beyond Health)
箱詰め・ラベル貼り作業で使われる、段ボールの送り出し機。組み立て前の段ボールは作業台の奥(写真では手前側)に置かれているが、送り出し機があるのでいちいち立ち上がって取る必要がない(撮影:Beyond Health)
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