発症前に細菌叢の変化をつかみ予防へ

 超早期診断法の実用化が待たれる一方で、谷内田教授は今後ぜひ取り組みたいことが2つあるという。一つは、大腸がんの進行に伴ってなぜ腸内細菌が変動するのか、その理由を突き止めること。もう一つは今回の研究成果をいかに大腸がん予防につなげていくか、だという。

 まずは一つめ、大腸がんの進行段階で腸内細菌が変わっていくのはなぜなのか。それは“原因”なのか、“結果”なのか。「進行大腸がんの場合は、がんが大きくなることで腸管が狭窄して便の流れが悪くなり、フソバクテリウム・ヌクレアタムなどの嫌気性菌が増えやすい腸内環境になると考えられるので、がんが進行した“結果”だと推測できる。

しかし、腺腫と粘膜内がんの場合はせいぜい1cm程度の大きさなので、進行大腸がんのような狭窄は起こらない。だから、こちらは結果ではなく、“原因”の可能性が高いと考えている。つまり、アトポビウム・パルブルムなどの細菌が増えるような腸内環境になると大腸がんが発症しやすくなるのではないか、と。今後は動物実験や被験者の追跡調査を行って、因果関係を明らかにしていきたい」。

 こう語る谷内田教授の研究室には現在、3000人以上の凍結便がマイナス80℃の超低温冷蔵庫に保存されている。「これだけの数のストックは世界最大規模。研究者にとってはまさに宝」と谷内田教授は顔をほころばす。

超低温冷蔵庫の中には3000人以上の凍結便が保存されている。研究の基になる貴重なサンプルだ(写真:今 紀之)

 そして、もう一つが大腸がん予防。実はこれこそが谷内田教授の最大の目標なのだという。「今回の研究では食生活についての詳細なアンケート調査も実施しているから、食事と腸内細菌叢との相関も調べられる。どんな腸内細菌が増えると大腸がんのリスクが上がるのか、そのような腸内環境はどのような食生活と関係しているのか。さらには、どんな食生活にすればリスクが下がるのか。それらを明らかにすることで大腸がんの予防や先制医療につなげていきたい。

 例えば“フローラ外来”のような場で、エビデンスに基づいた栄養指導を行うという手もあるだろう。治すより、ならないようにすることが、医師として研究者としての夢。夢を叶えられるよう、これからもコツコツ努力していきたい」と谷内田教授は熱く語る。

和室に改造した教授室では、「夢」と書かれた掛け軸が床の間を飾る(写真:今 紀之)

(タイトル部のImage:谷内田教授提供資料、Nature Medicine Vol.25 June 2019 968-976 にも掲載されている)