熊本地震で経験した高度な医療機器がない世界がキッカケに

 3社目のHiLungは、呼吸器疾患の創薬プロセスを革新するiPS創薬プラットフォームの実現を目標にしている。共同創業者の伊藤俊介氏によれば、呼吸器疾患は世界で毎年1000万人が死亡する重篤な病気にもかかわらず、アンメットメディカルニーズ(有効な治療法が見つかっていない病気に対する新薬や新治療法の要望)が深い領域だとする。なぜなら呼吸器疾患は培養細胞や動物実験の成果がヒトの実際の病態を反映せず、医薬品の開発が非常に難しい領域だからだ。

 そこで同社ではiPS細胞の技術を用いて、肺の細胞を体外で再現することに成功。京都大学医学研究科の山本佑樹特定准教授が中心となって研究を進めている。ここでは肺前駆細胞を作り、気道オルガノイドと肺胞オルガノイドヒトに分化誘導させ、ヒトとほぼ同等な病態を提供する。

HiLung 共同創業者 伊藤俊介氏

 「これまではなかなか呼吸器の細胞を培養することができず、医薬品の開発が滞っているような状況だった。しかし我々は体外で細胞を大量に再現できるため、医薬品の開発に必須のハイスループットスクリーニングなどのアッセイ(生物学的な反応を評価する方法)が可能となる」(伊藤氏)

 ビジネスのフェーズは、細胞販売/創薬支援、共同研究型の医薬品開発、再生医療等製品開発のステップとなる。伊藤氏は「最終的に今までにない呼吸器の医薬品を作っていくのが我々の目標とする創薬プラットフォーム」とし、医薬品のターゲットとしては嚢胞性線維症、突発性肺線維症の2つを考えている。

 最後のAMIは、2015年11月に創業。テクノロジーの活用によって遠隔医療にも耐えうる超聴診器の開発に励んでいる。代表取締役CEOの小川晋平氏は熊本を拠点にする現役の医師であり、熊本地震における医療ボランティアの経験が起業のきっかけとなった。

 「それまではCTやMRIなど高度な医療機器に囲まれた環境で診察していたが、熊本地震でそうした設備がない世界を初めて経験した。そこから質の高い遠隔医療を実現したいとの気持ちが芽生え、起業に至った」(小川氏)

AMI 代表取締役CEO 小川晋平氏

 対象疾患は大動脈便弁狭窄症と心不全だ。「共通点として予後が悪いことが挙げられる。一方、大動脈便弁狭窄症は2013年からカテーテル治療が可能となり、心不全も新治療薬が数多く生まれてきている。つまり早期発見がさらに重要になってきたのだが、全員に数十分かかる心臓エコー検査を行なうのは現実的ではない。そこで聴診器をアップデートしようと考えた」(小川氏)。

 開発中の超聴診器は、心筋活動電位の発生タイミングをトリガーにしてデジタル化された音を合成し、自動診断アシスト機能を実装する仕組み。そこに独自のAIアルゴリズムによるソフトウエアを加え、遠隔地から心音を聞くことができるようにした。当初はたった一人で手作りの試作機から始めたが、現在では医療従事者とエンジニアの混合チームが研究開発に携わり、遠隔でもクリアに聞こえる精度を実現している。さらに受け手側の環境で心音が上手くキャッチできない場合に備え、音を可視化できる機能を備える。

 「もともと遠隔で聴診して、災害地医療や離島医療に役立てたいという思いが根底にある。超聴診器によって、心疾患による突然死を少しでも減らしたい」(小川氏)