肺炎が原因の死亡者のうち95%以上は65歳以上の高齢者と言われる。高齢者の肺炎の多くは「誤嚥性肺炎」だ。飲み込みがうまく行かず、食べ物や唾液が肺に入ってしまうことが原因で発症する肺炎である。水やお茶のような飲み物。スープや味噌汁などの食事に「とろみ」をつけることで、誤嚥を防ぐ工夫は介護の世界では常識だ。従来、介護とは関わりのなかった企業も「とろみ」の重要性に気が付き始めた。お茶漬けの「永谷園」と自動販売機オペレーター大手「アペックス」の取り組みを紹介する。

 「最近よく咳き込むようになったな」

 そう感じたことはないだろうか。もし思い当たるフシがあるとしたら、飲み込みに何かしらの問題が出てきているのかもしれない。

 我々は日頃、意識することなく飲食物を飲み込んでいる。ところがこれ、実は案外複雑な行為だ。食べ物を口から取り込み、咀嚼しながら口内から喉の方へ押しやり、気管への弁を閉じて、食道への弁を開け、喉と食道の蠕動によって胃に届ける。

 高齢になると各所の機能が衰え、誤嚥が増えるわけだ。

 健康なうちは、飲食物が少々気管に入ったとしても、「咳き込み」などで押し返すことができる。ところが加齢にともない、そうした機能も衰えてくる。気管に異物がとどまることが増え、雑菌が繁殖して肺炎を発症する。これが誤嚥性肺炎だ。

 飲み物に「適度な粘度」があると、喉を通過するスピードが幾分遅くなり、誤嚥が減る。とろみ食品はそのために存在する。

 介護の現場にはどこでも「とろみ粉」が常備されており、嚥下に不安のある方の飲み物には必ず適量を添加して出す。

自販機オペレーター「アペックス」の挑戦

 カップ式自動販売機のトップ企業であるアペックスは、ボタンひとつで好みの飲料に「とろみ」をつけることができる「とろみ自動調理機」を開発した。外観はコーヒーやフルーツジュースなどを扱う一般的なカップ式自動販売機なのだが、「濃い」「中間」「薄い」と3段階のとろみが選べる。もちろんとろみなしも選択可能だ。

  同社商品開発室長の石原豊史氏が解説する。

アペックス商品開発室長の石原豊史氏(写真:末並 俊司、以下同)

 「介護の現場でも、人数の少ない事業所であればさほどでもないのですが、大きなところは、お茶を出すにしても、何十人、何百人分となります。そうした事業所では、飲み物にとろみをつけるという作業だけで1日に6時間もかけているというデータもある」

 朝食、午前中のお茶の時間、昼食、午後のお茶の時間、夕食……と飲み物を出す機会は多い。そのたびに大量のお湯を沸かし、お茶を入れ、とろみ材を投入して撹拌する。その手間は膨大だ。

 そもそもとろみ材とはどういったものなのか。石原氏はこう説明する。

 「専門的には『増粘剤』といいます。水の分子と分子の間に増粘剤が網の目のように広がることによってとろみがつく。増粘剤を投入して撹拌することによって、分子間に浸透していくのですが、浸透しやすいものとそうでないものがある。水に比べて、酸性のあるオレンジジューズなどはとろみがつきにくい。素材の違いを踏まえて、いかに同じ程度のとろみをつけるか。ここがポイント」

 従来の考え方では、とろみの付きにくいものにはとろみ材の量を増やすことで対応してきた。ただそれだと、時間が経過するにつれて粘度が高まり、すぐに硬くなってしまう。逆に危険だ。

 「弊社の『とろみ自動調理機』はとろみ材の量を一定にし、素材によって撹拌の程度を変えることで、とろみそのものを調整しています。だからこそ、どの素材でも一定の粘度を一定時間保つことができるのです」(石原氏)