αディフェンシンはうつ病で乱れる腸内細菌叢に関わる

 小腸のパネト細胞とαディフェンシンは、腸内細菌叢制御の重要なプレーヤーである──「ならば、うつ病において腸内細菌叢の破綻が脳に影響する“脳腸相関”も、αディフェンシンによって解明できるかもしれない」と中村准教授は考えた。

 研究では「社会的敗北モデル」といううつ病モデルのマウスを用いて、小腸粘膜を調べた。すると、パネト細胞の数もαディフェンシン量も有意に減少していた。

 「そこで、マウスの口からαディフェンシンを投与したところ、うつ病のヒトで低下することが分かっているグルタミン酸、ウラシルといった代謝物の量がV字回復することを確認しました(図3)」

 心理的ストレスは腸内細菌叢と菌代謝物の異常を引き起こし、うつ病の発症や悪化につながることは知られているが、因果関係は未解明だった。中村准教授らは、心理的ストレスによってパネト細胞の数とαディフェンシン分泌量の低下が起こり、腸内細菌叢の破綻を招くことを明らかにした。腸内細菌叢の破綻がうつを悪化させ、うつ状態がさらに腸に悪影響をもたらすという悪循環が起こっていると考えられる。

 「詳細なメカニズムについては未解明ですが、おそらくαディフェンシンによって増えた代謝物が腸の上皮細胞の隙間を介して血流をめぐり、脳に到達するのではないかと考えています。うつ病は発症する前の予防が特に大切だと思っています。セルフケアとして、ストレスに強い体をつくることにαディフェンシンを役立てたいです」

 αディフェンシンは、うつの予防や治療の新たな指標になりそうだ。

図3●うつ病モデルのマウスを使った実験結果
図3●うつ病モデルのマウスを使った実験結果
うつ病モデルである慢性社会的敗北ストレスモデルマウスでは、小腸陰窩のパネト細胞の数が有意に減少していた。うつに関わるとされる代謝物のグルタミン酸とウラシルも低下していたが、口からαディフェンシンを与えると、いずれも有意に増加し回復した
(出所:Sci Rep. 2021 May 10;11(1):9915.
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