αディフェンシン測定の社会実装を目指す

 中村准教授はパネト細胞について、「この細胞は、ヒトが食べて、栄養を摂り、健康に生きていく根本的な仕組みを支える、特別な役割を仰せつかったユニークな細胞です」と言う。

 「パネト細胞が存在する腸管上皮は、人間の体内で最も生まれ変わりのサイクルが短く、3日から5日で新陳代謝します。便は約7割が水分で残り3割が固形成分、そこには腸内細菌の他、消化物の残りかすや、腸から剥がれ落ちた腸管上皮細胞も多く含まれます。パネト細胞は、人類の長い歴史の中で、わずかな食料から栄養を効率よく取り込み、同時に紛れ込んでくる病原体による感染から身を守ることに大きく寄与して来ました。ストレスなどダメージに対して脆弱なのは、重要な役割を担う細胞だからこそ障害を受けたらすぐ死んでもらい、再生に導こうとする仕組みが働いているのかもしれません」

 逆手に捉えれば、αディフェンシン量を保つことによって、疾患リスクを抑えられるということだ。

 適切なαディフェンシン量を保つのに、行動変容を最も起こしやすいのは「食」だろう(図6)。そこで、中村准教授らはパネト細胞を活性化させる食成分の探索を行っている。そのために「マイクロインジェクション」という評価法も開発。ポリフェノールや生薬成分など様々な成分を評価し、有力候補を見つけてヒト試験を行う計画だ。

 また、食の研究に加え、中村准教授が進めている社会実装へのもう1つの取り組みが、αディフェンシンを計測する手法や装置の開発。「αディフェンシンを自らの健康状態を知る新たなモノサシとして活用できる社会を目指します」と話す。

図6●αディフェンシンによる腸内細菌叢制御を介した健康予防・改善
図6●αディフェンシンによる腸内細菌叢制御を介した健康予防・改善
中村准教授は「その人自身のパネト細胞を活性化しαディフェンシンを誘導する食成分により最適な腸内細菌叢を形成することで、健康予防・増進を図れる」と考えている
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中村公則氏
北海道大学大学院先端生命科学研究院准教授
なかむら・きみのり 1996年、北海道医療大学歯学部卒業。2000年、同大大学院歯学研究科修了。札幌医科大学医学部分子医学研究部門を経て2009年より北海道大学大学院先端生命科学研究院自然免疫研究室に所属。2013年より現職。口腔内細菌が腸管自然免疫に及ぼす影響を検討。パネト細胞やαディフェンシンに着目し、炎症性腸疾患の新規治療の開発などを行う

(タイトル部のImage:Science Photo Library/アフロ)